星野秀知、31歳の挑戦。プロ転向を自分らしい人生を拓くチャンスにしたい。

自分らしい人生を拓きたい、という思いからプロ転向を決断。
経験豊富な星野秀知の新天地での活躍が楽しみだ。(写真:東京グレートベアーズ)

 8月1日に東京グレートベアーズが入団を発表した星野秀知(31歳/アウトサイドヒッター)は、サレジオ中学校、東亜学園高校、東海大学、東レアローズと、すべてのカテゴリーで日本一を成し遂げた稀有な選手だ。代表経験も豊富で、2013年度、2016年度はシニア日本代表に選出された。バレーボール選手として陽の当たる道を歩んできた星野が、31歳にして選んだプロ転向にはどのような心境の変化があったのだろうか。

バレーボールを頑張ると目の前にスーッと道が広がった

 話を聞いたのは6月半ばだ。東レアローズが退団を発表してから約1ヵ月。Vリーグ機構に移籍希望を出した星野は自宅でオファーを待っていた。人生最大のチャレンジに「ワクワクしている」と笑顔を見せたが、正式に入団が決まるまでは落ち着かない日々を過ごしてきたに違いない。誰の手も借りずに進路を決めるのは、31歳にして初めてのことだからだ。

 小学校時代にバレーボールを始めてまもなく頭角を表すと、常に日本一を目指すチームに必要とされてきた。そして全中(2005年度)優勝。春高(2007年度、2008年度)では連覇を達成。精鋭が集まる東海大学でも1年次からレギュラーとして活躍し、全日本インカレ(2009年度、2011年度)では2度の日本一に輝いた。

「学生時代は目の前の試合に勝ちたい。そのために自分は何をすればいいのか。それだけを考えて一生懸命取り組んできました。その結果、僕を必要としてくださる学校や企業の方が(所属チームの)監督、コーチに話を持ってきてくださり、その中から(行き先を)選べばよかったので、バレーボール以外のことは深く考えていませんでした。バレーボールを一生懸命頑張っていれば目の前にスーッと道が広がっていく、そんな感覚でした」

 Vリーガーを目指していたわけでも、就職に有利だからとバレーボールに打ち込んできたわけでもない。自分を必要としてくれたチームに感謝し、期待に応えること。そこにやりがいを感じて自分を磨いてきた。

 攻守に優れている星野は東レアローズでも持ち味を発揮し、2016-17シーズンはリーグ優勝に貢献。翌2017-18シーズンから4季にわたりキャプテンを務めて、チーム力の底上げに尽力した。

好きなチームだから、退団を決意するまでに1年かかった

 近年の星野は、対角を組むアウトサイドヒッターや対戦相手、戦況などに応じて、攻撃型と守備型の比率を自分の中で巧みに調整できる有能なプレーヤーという印象だ。

「Vリーグで戦える選手であるために、自分なりに工夫して技術を磨いてきました。30代になり、選手寿命は確実に短くなっているので、コートでチームの勝利に貢献したいという思いが強くあります」

 東レアローズには毎年、ポテンシャルの高い選手が入団するが、戦力として渡り合う覚悟も自信もあるという。ところがチームの意向は違った。若手選手のバックアップを任された。

 自分と上司、あるいは組織の考えが食い違うことは、スポーツの世界に限らず、よくあることだ。自分の中で折り合いをつけるのか、行動を起こすのか。人生の岐路に立たされて、星野は初めて「引退」を意識した。

「バレーボールを頑張って、いつか引退して、会社員として働く人生を想像したら、ワクワクしませんでした。僕は会社員に向かない性格なんです。ただ、家族(奥さんとお子さん2人)がいます。会社に残れば安心して養っていける、とてもありがたい環境でバレーボールをやらせてもらっていました。そもそも東レアローズが好きですし、ここでプレーしたいという思いが強かったので、自分はどうすべきなのか、相当悩みました」

 「好きにしていいよ」という奥さんの助言がなければ、今も悩み続けていたかもしれない。

「(奥さんは)考え方がポジティブなんですよ。自分が会社員から独り立ちして仕事をしていることもあり、『今はいくらでも(生計を立てる)方法がある』『悩んでいるなら、他のチームでバレーボールをしてもいいんじゃない? 』とプッシュしてくれて、考えが広がりました」

 バレーボール界でもプロ化が進み、選手が自分の意思で行動を起こしやすくなったことも、追い風になった。

「誰かに相談したわけではありませんが、一度、(移籍希望を出して)自分の選手としての価値を聞いてみるのもいいのかなと思いました。プロ選手であれば、バレーボールを一生懸命頑張ることによって、他の仕事や事業に結びついていく可能性もあります。そこにも魅力を感じました。年齢的には少し遅いかもしれませんが、もしうまくいかなくても、自分で考え、判断し、決めたことなら、納得して次の道に進むことができます。1年かかりましたが、最終的には、これが最初で最後のチャンス。自分らしい人生を拓くきっかけにするぞ、という思いで決断しました」

チームに良い影響を与えられる、強くてかっこいい選手になりたい

「プロになったからには、これまで以上に必要とされる選手にならなければいけない」と話す星野に、その具体策を尋ねると、「自分にとってはやりがい、チームにとってはこの選手と契約してよかったという納得感や満足感を得られる、Win-Winの関係を作ること」という答えが返ってきた。

「そのためにはまず、プレーでアピールしなければいけないと思っています。得点をアシストするサーブレシーブや、つなぎのプレーは、僕のプレースタイルとして引き続き大事にしていきますが、それだけでは足りません。信頼を得るには、チームを一気に乗せることができる得点力が必要です。例えば柳田(将洋/ジェイテクト)選手のような、得点力で存在感をアピールできる選手が理想です。自分が得意とする守備力に、試合展開を一気に覆せるような得点力が備われば、そこにいるだけでチームに安心感をもたらすことができる選手になれるのではないかと思います。(チームメイトへの)声かけにも説得力が増すと思います」

 目指すのは、チームに良い影響を与えることができる「強くてかっこいい選手」だ。

「プレーで魅せることが大前提ですが、いろいろな角度から、応援したい!と思ってもらえる選手になることもプロ選手の大切な仕事です。これまでは身だしなみにしても、人への接し方にしても、あまり意識していませんでしたが、そういうことも含めて、自分自身が変わることを恐れずにチャレンジしていきます」

 期せずしてプロ選手に転向した年に東京グレートベアーズが誕生した。アウトサイドヒッターを必要としていたことから星野に白羽の矢が立ち、V1でプレーするチャンスが生まれた。背番号「1」に、期待の大きさが伺える。この幸運を活かして、地元の東京でどのように自分の思いを表現するのか、楽しみだ。

「これからの人生は、すべてが自分の責任になります。きついと思いますが、それも含めておもしろいのではないかと思っています。僕はバレーボールしかしてこなかったので、自分に何ができるのか、何が向いているのか、わかりません。バレーボール以外にやりたいこともまだ見つかっていないので、今後のプロ生活を通して今まで気づかなかった自分を掘り起こしていけるように、精一杯頑張ります」

【追記】
ここに東京グレートベアーズが入団に際して発表した、真保綱一郎監督のコメントを掲載する。

「星野選手の加入は、東京グレートベアーズに安定と成長をもたらす非常に素晴らしい補強であると考えています。星野選手のストロングポイントであるブロックを含めたディフェンス面やレセプションでの貢献はもちろんのこと、学生時代から代表経験が豊富であり、各カテゴリーで数多くの優勝を勝ち取っている彼の経験をチームに注入し、化学反応を起こしてもらうことも期待しています」
星野秀知(ほしの ひでとも)
東京グレートベアーズ/アウトサイドヒッター/1990年9月29日生まれ/東京都世田谷区出身/身長187cm/サレジオ中→東亜学園高→東海大→東レアローズ/主な代表歴:2011・2013ユニバーシアード、2012アジアカップ、2016ワールドリーグ

取材・文/金子裕美

藤中三兄弟の三男・颯志がV1デビュー。兄弟対決もリーグ後半戦の見どころに。

藤中三兄弟がV1に揃った

2021-22V.LEAGUE DIVISION1 (V1)は、1月16日にレギュラーラウンドの前半戦(18試合)が終了。次週から後半戦(18試合)が始まるが、年明けの1月8日から、今年4月に入団が内定している選手たちが初々しいプレーを披露している。

その1人、VC長野トライデンツの藤中颯志は、V1で活躍する藤中謙也(サントリー/28歳)、藤中優斗(ジェイテクト/25歳)の弟だ。スタメンリベロとして、1月8日の大分三好戦から4試合連続でフル出場。デビュー戦のスタートこそ、山田滉太(大分三好)の強烈なサーブを返球できずV1の洗礼を受けたが、気持ちを立て直してサーブレシーブ成功率64.7%をマークしたほか、ディグやつなぎでもデビュー戦とは思えない安定感を発揮してチームの今期初勝利に貢献した。4試合トータルでもサーブレシーブ成功率は62.9%と、上々の滑り出しを見せている。

「常に2人の兄のプレーや、活躍する姿を見続けてきたので、同じ舞台でバレーボールができることが嬉しい」と素直に喜ぶ一方、トップリーグで活躍することの難しさを肌で感じて、「改めて2人の兄を尊敬し直している」と言う。

謙也の身長は188cm、優斗は182cm。どちらもアウトサイドヒッターで、入団1年目のシーズンに最優秀新人賞を受賞している。兄弟の中でもっとも小柄な颯志は、大学時代にアウトサイドヒッターからリベロに転向したが、プレーの質や冷静に状況を判断する力は兄たちに引けを取らない。チームが得点した際に自然と出るガッツポーズとくったくのない笑顔も颯志の魅力だ。

「同じ舞台でプレーするからには兄とか弟とか関係なく、2人の存在を越えられるような選手になりたい」と、しっかり先を見据える三男の参戦で、兄弟対決がレギュラーラウンド後半戦の見どころの一つになりそうだ。

・2月19日、20日 サントリー(謙也)対 ジェイテクト(優斗)ウィングアリーナ刈谷
・2月26日、27日 サントリー(謙也)対 VC長野(颯志)スカイアリーナ
・3月12日、13日 ジェイテクト(優斗)対 VC長野(颯志)ジェイテクトアリーナ奈良

6年前の兄弟対談の時の画像

6年前、石川祐希(ミラノ)、小野寺太志(JT広島)ら有望選手が揃った選抜合宿に、謙也と優斗も選出された。本誌(Vol.2)で兄弟対談を行った際に謙也は「中学以降、バレーに本格的に取り組んでからは、優斗のプレーをあまり見ていない」と話していたが、颯志についても同じだろう。兄が道を切り開き、弟たちはその背中を追ってきた。三兄弟が本気の戦いの中で見せる姿から、兄弟に通じるものや、それぞれが放つ個性を感じ取ってほしい。

藤中颯志
ふじなかそうし/1999年12月2日、山口県生まれ、22歳/身長177cm/最高到達点325cm/宇部商業高校→ 専修大学在学中

(文・金子裕美)

レセプションで及第点とも言える数字を残した藤中颯志

WD名古屋:引退の内山正平×高松卓矢が後輩にエール

4月18日に引退セレモニーを行った内山(左)と高松

豊田合成トレフェルサをVリーグ初優勝(2015/16シーズン)へと導いたクリティアンソン・アンデッシュ前監督のもと、主力メンバーとして活躍した内山正平(セッター)、高松卓矢(アウトサイドヒッター)が今シーズンを最後にコートを去った。

2人は2010年に入団。2013年にアンデッシュ氏が監督に就任すると、英語習得に四苦八苦しながらも、同氏のバレーボールに対する考え方に傾倒し、力をつけて豊田合成トレフェルサの黄金期を築いた。2018年より、チームはティリカイネン・トミー監督(2020-21シーズンで退団)に引き継がれ、クラブ化に伴い、2019-20シーズンよりチーム名をウルフドッグス名古屋(以下、WD名古屋)に変更。環境が変化する中で前田一誠(セッター)、高梨健太(アウトサイドヒッター)、小川智大(リベロ)らが成長し、今季、高松は大分三好ヴァイセアドラー(期限付き移籍)でプレーしていた。

4月18日(日)に豊田合成記念体育館エントリオで引退セレモニーを行った高松と内山に心境を聞いた。

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後悔しない「今」を生きる、プロバレーボーラー渡辺俊介の選択。V2の雄「ヴォレアス北海道」でプレーする意味とは

ヴォレアス北海道のお披露目会見。左/エド・クライン監督、右/降旗雄平GM

昨シーズン、ドイツ・ブンデスリーガ1部のエルトマンに所属し、スタメンリベロとして活躍したプロバレーボーラー渡辺俊介(リベロ/32歳)が、シーズン途中の11月26日(木)に、V2のヴォレアス北海道と入団し、12月6日(日)の大同特殊鋼戦にスタメン出場した。チームに合流してから日が浅いにもかかわらず、サーブレシーブ返球率で87.5%をマーク。渡辺の持ち味である指示の声やチームを鼓舞するパフォーマンスも全開で、見事にチームの勝利に貢献した。

出身地の北海道がつないだ縁

 エド・クライン監督によると、渡辺の名前がコーチ陣の間であがったのは、昨シーズンが終了したあたり。「コロナの影響もあり、海外のリベロ需要は少ない。おそらく海外でチームを見つけることは難しいだろうと思っていたので、『声をかけてみてもいいのでは?』という話をした」という。
 実はその1年前から、監督自身は渡辺に興味を持っていた。東レアローズで良い成績を残しているのに、なぜ退団するのか。なぜドイツなのか。率直に感じた疑問を解き明かすために、渡辺の周辺から情報を収集したり、ドイツリーグの映像を観たりしていたという。
 「日本人選手が海外の選手と対峙した時にどう機能するのか。ビッグサーバーに対するサーブレシーブは、練習、あるいは試合、どちらを通して上達するのか。そうしたさまざまな観点からヨーロッパのリーグを観て研究する」というエド監督は、渡辺がドイツリーグで見せたビッグサーバーに対する適応能力や、体の大きい海外の選手にも負けじと向かっていく闘争心に魅力を感じていた。ヴォレアスの中田桂太郎コーチが順天堂大学時代、渡辺の1学年先輩にあたり、人となりや経歴をよく知ることもあり、獲得したい選手の1人だったが、今シーズンは元日本代表の越川優の獲得にとどまり、16名でスタートを切った。
 ところが、夏場にケガ人や選手の仕事の都合等でチーム強化が思うように進まず、「リベロの必要性を感じた」エド監督は、9月ごろから降旗雄平GMに相談。当初は予算の問題などから慎重だったが、「開幕(10月24日)1週間前に行ったチーム内の紅白戦でもメンバーが揃わなかったため、渡辺選手に意思を聞くことから始めた」(降旗GM)という。
 その時、渡辺はサフィルヴァ北海道の練習に参加していた。サフィルヴァの辻井淳一GMが小学校時代のチームの恩師で、一緒に練習しないか、と提案してくれたのだ。そのサフィルヴァとヴォレアスが、開幕2週間前に練習ゲームを行い、対面したことも1つのきっかけとなって、今回の入団が実現した。

どんな強打にも食らいつく。得点したらコートを走り回る。魂でプレーするスタイルはどのコートでも変わらない。

チームに良い影響を与えるであろう、豊富なキャリアが魅力

 「クラブにとって非常に重要なポジションに、経験豊富でリーダーシップを持つ渡辺選手を獲得できたことは非常に嬉しい。これまでの経験を、すべてチームに落とし込んでほしい」とエド監督が手放しで喜ぶように、今シーズンV1昇格を目指すヴォレアス側のメリットは大きい。
 なにより、チームとして戦うために自分がすべきことを知っている。東レアローズが苦しい時期にキャプテンを任され、試行錯誤しながらチームをV・プレミアリーグ優勝へと導いた。その日々の中で培われた、チームが目標を達成するために必要なマネジメント能力は、ヴォレアスでもよりよい形で発揮されるに違いない。
 尚かつ、日本代表や海外リーグも経験している。「チャレンジマッチを勝ち抜くにはサーブレシーブの強化が必要。強いサーブを打つ選手たちと対峙してきた(渡辺選手の)キャリアは、今後の試合で必ずチームの役に立つ」(エド監督)と、期待を寄せる。
 「リベロのポジションに経験豊かで自信のある選手がいると、周りの選手にもその自信が伝わっていく。渡辺選手は練習前の準備と練習に向かう姿勢も素晴らしいので、そういう部分も、特に若いアウトサイドの選手に学んでほしいと思っています」(エド監督)

32歳という年齢は「国際的な観点ではちょうど脂が乗ってくる時期」とエド監督。期待は大きい。

ヨーロッパ人の監督との出会いはビッグチャンス

 では、選手側のメリットはどこにあるのだろうか--。
 1つは、自分を必要としてくれるチームと出会い、プレーできる場を得られたことだ。
 「今シーズンもエージェントに動いてもらい、チームを探してもらっていました。海外でプレーしたいという気持ちがありましたし、昨シーズン、ぎりぎりまで待ってチャンスが巡ってきたので待つ覚悟はありましたが、10月に入り、Vリーグが始まると焦りを感じるようになりました」
 プロバレーボーラーにとって、チームに所属できないダメージは大きい。入団からわずか10日でヴォレアスでのデビュー戦に臨み、勝利した後に「フィジカルトレーニングはしっかりやってきたので、恥ずかしくないプレーができてよかった」と振り返ったように、個人でできることは限られているからだ。
 「いくらコロナ禍で状況が悪いとはいえ、プレーしなければ次のシーズンにつながらないので、ヴォレアス北海道さんから『一緒に戦ってくれないか』というオファーをいただいた時は、正直なところ、ほっとしました。自分の能力やキャリアを理解し、必要としてくれたことに感謝しています」
 しかも、生まれ育った北海道のチームだ。「北海道に2チーム、Vリーグの看板を背負っているチームがある。僕が小学校の時には考えられなかったようなことが起きていて、ジュニア世代の子たちにとってバレーを見る機会が増えたことがすごく嬉しい。思いがけず故郷でプレーする機会をもらったので、必ずV1に上がるんだ、という強い気持ちをもってプレーしたい」と、お披露目の会見で力強く話したように、おのずとモチベーションが上がる環境にいる。
 さらに大きなメリットは、ヨーロッパのバレーボールに精通するエド監督のもとでプレーできることだ。「プロ選手として、人として、価値を高めるために海外挑戦を続けたい」という渡辺の気持ちを理解した上でのオファーであり、監督をはじめ、選手、スタッフとともにV1昇格、そして日本一を目指せるチームを作っていく日々のなかで得られる知見は、今後の渡辺を支える大きな力となるはずだ。エド監督との対話を通して、英語力にも磨きがかかるに違いない。

海外挑戦をあきらめたわけではない。ヴォレアス入団は夢をつなぐ大いなるチャンスだ。

 同郷で小学生の頃から渡辺を知る一人、ヴォレアスのキャプテン古田史郎(OP)に渡辺の加入について尋ねると、「海外でプレーすることは誰もができることではない。その経験を(渡辺選手が)これからどう表現するのか。それが人々にどう届くのか。そこは1アスリートとして僕自身も知りたいところだ」と話した。新しいクラブチームのあり方を模索し、失敗を恐れることなく挑戦し続けるヴォレアスでは、プロ選手としてのマーケティング力も問われる。そこは今後、注目したいところだが、ヴォレアスで培ったさまざまな力を武器に、エド監督のネットワークを生かして世界へ、という未来もあるかもしれない。
 「今」がどんな状況であっても、「いつ転がってくるかわからないチャンスに備えて、やれることをやるだけ」と言う渡辺。その信念を貫き、つかんだヴォレアス入団が、単なる助っ人ではなく、「後進に、こんな道もあるんだということを伝えたい」という思いをかなえる布石となりそうで楽しみだ。

【プロフィール】
渡辺俊介(わたなべ しゅんすけ)
北海道江別市出身 32歳
小学校からバレーボールを始める。中学校を卒業後、北海道を離れて埼玉県立深谷高校に進学し、春高バレーで2連覇を達成。順天堂大学では4年生の年に全日本インカレで優勝。学生時代はアタッカーとして輝かしい成績を残したが、東レアローズ(2011年から2019年まで在籍)入団後にリベロに転向。キャプテンを務めた2016-17シーズンに、V・プレミアリーグで優勝を果たした。その活躍により、2017年度日本代表に選出され、ワールドリーグに出場した。さらなる飛躍を求めてプロに転向した2019-20シーズンは、待望の海外リーグ挑戦が実現。ドイツ・ブンデスリーガ1部のエルトマンと契約し、スタメンリベロとして活躍した。

文/金子裕美

混戦のV1男子。昨季7位のウルフドッグス名古屋が台風の目に!

 10月17日(土)に幕を開けたVリーグ(V1男子)は、レギュラーラウンド(4回戦総当たり)を熱戦中。現在、全チームが10試合、同一カードを2試合ずつ戦い、下記のような順位となっている。試合が1週空いて、どのような調整が行われたのか。11月27日(金)・28日(土)に行われる次戦が楽しみだ。

1位 ウルフドッグス名古屋 8勝2敗 23ポイント 2.17% 
2位 パナソニックパンサーズ 8勝2敗 23ポイント 2.00%
3位 サントリーサンバーズ 8勝2敗 23ポイント 1.80%
4位 JTサンダーズ広島 7勝3敗 21ポイント
5位 ジェイテクトSTINGS 7勝3敗 18ポイント
6位 堺ブレイザーズ 5勝5敗 16ポイント
7位 東レアローズ 5勝5敗 14ポイント
8位 FC東京 2勝8敗
9位 VC長野 0勝10敗 2ポイント 0.27%
10位 大分三好ヴァイセアドラー 0勝10敗 2ポイント 0.17%
※勝敗が同じ場合、ポイント、セット率により順位を決定(11月15日終了時)

クレクの働きで取り戻した「自信」

 昨シーズンの上位チームを抑えてトップに立つウルフドッグス名古屋(以下、WD名古屋)は、精度の高いトータルディフェンスとオポジットの攻撃力が特色のチームだ。

 クリスティアンソン・アンデッシュ前監督が、チームコンセプトに基づいたチームバレーを根づかせて、2015/16シーズン(当時は豊田合成)に初優勝。その後も準優勝2回と強豪チームに成長させた。その間に、ティリカイネン・トミー監督を迎えて、二人三脚でチーム強化に取り組んできたが、2018-19シーズンを最後にアンデッシュ前監督が勇退。新時代を担うであろう、学生時代に国際大会を経験している4選手(高梨健太、永露元稀、小川智大、勝岡将斗)が入団し、トミー監督のもと、コーポレートクラブハイブリッドチーム「ウルフドッグス名古屋」として新たな一歩を踏み出した昨シーズンだったが、7位に終わった。新体育館が完成した今シーズン、なんとしても結果を出したい、という思いは、世界屈指の主砲、クレク・バルトシュ(ポーランド代表/オポジット)の獲得に表れている。入国から14日間、待機生活を送り、開幕の3日前にチームに合流。急ごしらえのチームで開幕週はサントリーに連敗したが、翌週から負け知らずの8連勝でトップに躍り出た。

守備面で存在感を発揮するリベロ小川智大。

 その日の会見で、アンデッシュ前監督時代から、トータルディフェンスの要として厚い信頼を得ている近裕崇(ミドルブロッカー/キャプテン)は、「ブロックでボールが抜けたり、ボールをタッチしたりした時に、(リベロが)いるよね、という感覚が昨季よりも強い気がする」と、手応えを口にした。

「昨シーズンはトミー監督が思い描いているバレーを体現できなかったのですが、今年は練習を積んで、練習の時からそれができてきている実感がありました。また、クレク選手がリーダーシップをとって、チームに自信を与えてくれています。それもチームが好調な要因だと思います」

 そう話すのは、今シーズン、スタメン起用されているリベロの小川智大だ。今年はスピンサーブへの対応と、サーブレシーブのフォーム改善に取り組んできたという。自分のこだわりを捨てて猛練習した成果が今、数字に表れて、サーブレシーブ成功率ランキングでトップ(76.3%/11月15日終了時)に立っている。サーブレシーブの場面では、セッターの攻撃プランに応じて、誰がレシーブするのがベストなのかを考え、(サーブレシーブを担当するアウトサイドの選手に)指示を出していると言うが、チームのサーブレシーブ成功率も現在1位(60.6%/11月15日終了時)で、ベンチの信頼を獲得している。

「(セッターが攻撃させたい選手に)できるだけフリーで打たせたいから」と小川。そのため、後衛のアウトサイドの選手と小川がレシーブに入るという選択をして「パイプが弱くなるケースもある」と言う。そうした駆け引きをコート上の選手たちがコミュニケーションを取りながら、場面に応じてよりよい選択をし、得点に結びつく行動をとる、という文化が根づいているのがWD名古屋の強みだ。キャプテン近も、「(攻撃の場面では)僕に相手のマークがつくことが第一。他の選手が助かるから」と献身的なプレーに徹する。その背中が道標となってチームは1つになりつつある。

コート上で表情豊かにプレーするアウトサイド高梨健太。

 さらにクレクが、総得点ランキング1位(272点/11月15日終了時)の働きにとどまらず、コート外でも積極的に選手にかかわることにより、チームは自信を取り戻している。エースに成長中の高梨健太や、サントリーの柳田将洋とともに春高バレーを沸かせた山田脩造(共にアウトサイド)も、非凡な能力を発揮していて頼もしい。

 レギュラーラウンドはまだ序盤だが、今シーズン、WD名古屋が台風の目となって、順位争いに大きな影響を与えそうな様相。本日のナイトゲームを含め、今週末以降の戦いに大いに注目したい。

【11月27日(金)・28日(土)の対戦カード】
大阪(大阪市)サントリー vs JT広島
【11月28日(土)・29日(日)の対戦カード】
愛知(稲沢市)WD名古屋 vs 大分三好
長野(松本市)VC長野 vs パナソニック
静岡(静岡市)東レ vs 堺 ジェイテクト vs FC東京

文・金子裕美

Vリーグ、17日開幕!柳田将洋ら海外経験者が参戦

昨季、ユナイテッド・バレーズ(ドイツ)で活躍した柳田将洋。今季は古巣のサントリーでこれまでの経験をすべてぶつける覚悟だ。

バレーボールの国内リーグ、2020-21V.LEAGUE DIVISION1 MEN(以下、V1)が10月17日(土)に各地で開幕した。今季より10チームによる4回戦総当たり方式を採用。2021年3月28日(日)までV・レギュラーラウンドを行い、上位3チームが4月4日(土)・5日(日)に行われるV・ファイナルステージに進出する。4位~10位のチームはレギュラーラウンド終了時の順位が最終順位となり、下位2チームはV・チャレンジマッチ(入替戦)に出場する。

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「現役生活に悔いを残したくない」 五輪出場を目指す元日本代表リベロ、井手智がドイツリーグ参戦へ。

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運良く良いチームと出会い、モチベーションが上がった!

闘志あふれるプレーが信条の元日本代表リベロ、井手智(28歳)が、2019/20シーズンが終了後、6年間在籍した東レアローズを退団。プロ選手として、ドイツ1部ブンデスリーガ のユナイテッド・バレーズ・フランクフルト(以下、UVフランクフルト)と契約し、今月18日(火)にも渡欧する予定だ。自身の思いを貫き、新天地でチャレンジする機会を得た井手に、海外参戦を決意した理由や今の気持ちを聞いた。

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