【TOKYO2020】ベスト8敗退も、3年後のパリに向けて確かな手応え

イランに勝利した後、石川を労う中垣内監督。

2008年の北京五輪以来、3大会ぶりにオリンピックの舞台に立った日本は、予選ラウンド最終戦でアジア1位のイランを破り、準々決勝に進出。準々決勝では、長きにわたり世界王者に君臨するプラジルにセットカウント0-3で敗れたものの、SNSで「男子バレーがおもしろい」などのコメントが飛び交う熱い戦いを演じた。もちろん選手は悔しさを噛み締めているだろうが、今大会を戦う中で、3年後のパリにつながる確かな手応えを得たことは間違いない。(写真提供:FIVB)

中垣内ジャパンは2017年に結成以来、5年間にわたり、懸命にデータを取り、分析して、世界と戦えるチームづくりを模索してきた。選手に求められたのは、より一層の主体性だ。チーム目標を人ごとではなく、自分ごととしてとらえて本気で取り組む姿勢なくして、自国開催のオリンピックに立ち向かうことはできないからだ。その雰囲気をいち早く察してプロに転向し、海外で武者修行する選択をした柳田将洋がキャプテンに任命された。そこに五輪経験者、福澤達哉が加わり、石川祐希や小野寺太志、西田有志ら、チームの主軸になる若手選手の個性を尊重しつつも、チームを束ねてきた。2019年に行われたW杯4位は、チームを統括する立場にある中垣内祐一監督をはじめ、すべてのスタッフと、チームの戦術をコート上で体現した選手たちの努力の結晶であり、東京五輪に向けて大きな弾みとなった。

守備からの攻撃参加が体に染み付いている高橋。そこも優れていることの一つ。

東京五輪が予定通りに昨年行われていれば、W杯メンバーを軸に代表選考が行われ、柳田、福澤も五輪代表に選ばれていたに違いない。1年延期となり、2024年に開催予定のパリ五輪も視野に入れたメンバー選考が色濃くなって、石川が新キャプテンに抜擢され、メンバー選考にも影響が出た。そこで注目されたのが、19歳の高橋藍だ。2020年1月に行われた春高バレーで優勝した東山高(京都)のエース。その年に日本代表入りを果たしたが、コロナ禍で国際大会はすべて中止となり、2021年5月に行われた中国との親善試合が国際試合デビューとなった。不慣れな中でも、関係者や記者の間で「五輪代表メンバーに入るかも」という憶測が飛び交ったのは、日本チームがアウトサイドヒッターに求めていた力を備えていたからだ。その後のネーションズリーグでは並外れた対応能力を発揮。持ち前の守備力と、しなやかかつ果敢に攻める姿勢で存在感を示して五輪代表メンバーに選ばれるだけでなく、スタメンの一角を勝ち取った。

世界大会の中でも、すべてのチームが本気で挑むオリンピックの舞台。そこで「日本バレーもなかなかやるじゃないか」という評価を得ることができたのは、緻密なバレーを実現するために、一人ひとりが高い意識をもって技術を磨いてきたことが大きい。イタリアリーグで腕を磨く石川は、フェイクトスしかり、駆け引きのうまさや、ここぞという時にサービスエースを決めるなど、相手にダメージを与えるスキルやテクニックを存分に発揮した。もう一人のエース、西田有志も今シーズンに入ってから捻挫や肉離れなどに見舞われ、コンディションは万全ではなかったが、世界に通じるスイングスピードと技術力でポイントゲッターの役割を果たした。そうした魅力あふれる個人技に加え、一人ひとりがチームの約束事を遂行するために愚直に力を尽くした。リベロ山本智大を中心とした守備を起点に得点する場面がたくさん見られたのも、個人の技術力はもとより、サーブで揺さぶる、ブロックでコースを塞ぐなど、チームの連携力があってのこと。ポーランド、ブラジルなど世界トップクラスのチームを相手にしても、連携力を駆使して対等のバレーができたことは自信になったはずだ。

今大会は多くの競技で若い選手の活躍が目立つが、男子バレーも例外ではない。スタメンの多くが3年後のパリを20代で迎える年齢であり、この経験を活かせる環境にある。戦いを終えたばかりの選手たちが、早くも次の五輪を見据えていることが頼もしく、日本チームのこれからに期待は高まるばかりだ。

【TOKYO2020】準々決勝進出なるか。予選ラウンド最終戦での勝利が絶対条件

好守で攻撃の起点をつくるリベロ山本智大。

日本は、7月30日(金)に有明アリーナ(東京都江東区)で予選ラウンド第4戦を行い、ポーランドに0ー3(22-25、21-25、24-26)で敗れて2勝2敗となった。第3戦終了時点で4チームが2勝1敗で並んでいたが、この日、3勝目をあげたポーランドとイタリアの準々決勝進出が決定。また、1勝2敗のカナダがベネズエラに勝利し、勝敗で日本、イランと並んだが、勝ち点・セット率により第5戦の結果を待たずに4位以内を確定した。日本が準々決勝に進出するには、イランに勝つことが絶対条件となった。(写真提供:FIVB)

ずぬけた成長力でチームを支える高橋藍。

ポーランド(世界ランキング2位)のような、得点能力の高い選手が揃うチームに勝つためには、サーブで揺さぶりをかけ、余裕をもってプレーさせないことが重要だ。また、被ブロックをいかに回避するかを考えながらプレーしなければならない。難しい試合になることは必至だったが、日本はイタリアとの敗戦を糧に、第1セットから冷静にプレーした。地力に勝るポーランドに1、2セットを奪われたが、そこで崩れずに仕切り直しができたことも収穫だ。高橋藍に代わり、第3セットのスタートからコートに立った高梨健太も落ち着いてプレーし、点を取られたら取り返す、互角の戦いを繰り広げた。終盤、再びリードを奪われても自分たちのバレーを見失うことなく、集中力を切らさずにボールをつなぎ、攻めることができていた。ポーランドに敗れはしたが、次につながる戦いぶりだった。

日本にとって、第5戦の勝敗が準々決勝進出の鍵になることは想定内であり、中垣内祐一監督はオリンピック前に行われたネーションズリーグに向けての会見でも「イランには勝たなければいけない」と話し、意図をもって戦ってきた。イランにとっても勝てば準々決勝進出が決まる真剣勝負に日本はどのように立ち向かうのか。2017シーズンから試行錯誤しながら築いてきたチーム力の真価に注目したい。

【A組戦績】

ポーランド  3勝1敗(イラン2ー3・イタリア3ー0、ベネズエラ3ー1、日本3ー0)勝点10

イタリア  3勝1敗(カナダ3ー2・ポーランド0ー3、日本3ー1、イラン3ー1)勝点8

カナダ 2勝2敗(イタリア2ー3・日本1ー3、イラン3ー0、ベネズエラ3ー0)勝点7 

日本 2勝2敗(ベネズエラ3ー0・カナダ3ー1、イタリア1ー3、ポーランド0ー3)勝点6

イラン 2勝2敗(ポーランド3ー2・ベネズエラ3ー0、カナダ0ー3、イタリア1ー3)勝点5

ベネズエラ 0勝4敗(日本0ー3・イラン0ー3、ポーランド1ー3、カナダ0ー3)勝点0

【TOKYO2020】イタリアに敗戦。日本男子のA組は全勝なし。4チームが2勝1敗で並ぶ混戦に

ミドルブロッカーによる得点が22。イタリアの戦略にはまり、初黒星を喫した

バレーボール男子日本代表は、7月28日(水)に有明アリーナ(東京都江東区)で予選ラウンド第3戦を行い、イタリアに1ー3(20-25、17-25、25-23、21-25)で敗れて2勝1敗となった。日本と同じA組で2戦2勝のイランも、この日カナダに敗れため、全勝が消えて4チームが2勝1敗で並ぶ混戦となっている。予選ラウンドは全5試合で、各組、上位4チームが準々決勝に進む。次戦は30日(金)。日本は強豪ポーランドと対戦する。(写真提供:FIVB)

厳しい戦いながらも、チーム最多の22得点でチームを牽引したキャプテン石川

スターティングメンバーは変わらず。関田誠大(セッター)、石川祐希(アウトサイドヒッター)、山内晶大(ミドルブロッカー)、西田有志(オポジット)、高橋藍(アウトサイドヒッター)、小野寺太志(ミドルブロッカー)、山本智大(リベロ)という布陣。

日本はカナダ戦同様、サイドアウトを取りながら、ブレイクのチャンスを待つ展開に持ち込みたかったが、第1セット中盤からは相手のサーブに崩されて、石川、西田に頼らざるを得ない展開となった。高さのあるブロックがしっかり2枚つく状況に、石川も厳しい表情。第2セットに入るとブロックにつかまる場面が増えて、日本ベンチは関田に代わり藤井直伸、高橋に代わり高梨健太、山内に代わり李博を投入。さらに終盤、石川に代えて、今大会初出場の大塚達宣をコートに送ったが戦況は変わらず。日本は第1セットに続き、第2セットも失った。

難しい局面でコートに立つことが多い藤井。相手を惑わすトスワークに期待がかかる

後がない第3セット。藤井、高梨、李をスタメンに起用した日本は、序盤からクイックやパイプなど真ん中からの攻撃を絡めてリードした。中盤で逆転を許したものの終盤まで粘り抜き、小野寺の2本連続サービスエースで同点に追いつくと、逆転でこのセットを奪った。

第3セットと同様の戦い方ができれば、その後もセットを奪うチャンスは十分にあると期待したが、第4セットは序盤から相手のブロックが立ちはだかり、思うような攻撃ができない。流れを呼び込もうと粘るがリードを奪うことはできず。21対25でこのセットも失って、日本は今大会初の黒星を喫した。

前に落とす、選手間を狙うなど、相手を揺さぶるサーブが光った小野寺

終わってみれば、イタリアのブロックによる得点が13(ベネズエラ戦は2、カナダ戦は6)と、日本が攻めあぐねたことがわかる。次のポーランド戦は、Vリーグの助っ人クビアク・ミハウとクレク・バルトシュを擁する、世界ランキング2位の強敵だけに、日本としてはまずはサーブで揺さぶりをかけ、攻撃を絞れる展開に持ち込みたい。また、相手ブロッカーを惑わす攻撃体制をいかに作れるかが、勝利をつかむ鍵になるだろう。

【A組戦績】

ポーランド  2勝1敗(イラン2ー3・イタリア3ー0、ベネズエラ3ー1)

日本 2勝1敗(ベネズエラ3ー0・カナダ3ー1、イタリア1ー3)

イラン 2勝1敗(ポーランド3ー2・ベネズエラ3ー0、カナダ0ー3)

イタリア  2勝1敗(カナダ3ー2・ポーランド0ー3、日本3ー1)

カナダ 1勝2敗(イタリア2ー3・日本1ー3、イラン3ー0)

ベネズエラ 0勝3敗(日本0ー3・イラン0ー3、ポーランド1ー3)