「現役生活に悔いを残したくない」 五輪出場を目指す元日本代表リベロ、井手智がドイツリーグ参戦へ。

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運良く良いチームと出会い、モチベーションが上がった!

闘志あふれるプレーが信条の元日本代表リベロ、井手智(28歳)が、2019/20シーズンが終了後、6年間在籍した東レアローズを退団。プロ選手として、ドイツ1部ブンデスリーガ のユナイテッド・バレーズ・フランクフルト(以下、UVフランクフルト)と契約し、今月18日(火)にも渡欧する予定だ。自身の思いを貫き、新天地でチャレンジする機会を得た井手に、海外参戦を決意した理由や今の気持ちを聞いた。

--正式に入団が決まった、現在の気持ちを教えてください。

「決まるまでにいろいろあったのでホッとしているというか、今は覚悟を決めて現地に行くだけ、という感じですね」

--いろいろあったとは?

「一度、早い段階で同じドイツリーグのチームからオファーをいただきました。ところが、新型コロナが世界的に広がっていた時期。チーム予算の問題で、契約直前に流れたんです。それがショックだったというか、この先、大丈夫かなぁと不安になりました。その後、ポルトガルリーグのチームからオファーをいただきましたが、(コロナの影響で)今年は力のある選手がチームを離れているよう。エージェントから『(井手選手の)意思に添えるかわからない』と言われたので、一旦保留にして考えることにしました。ただ、いつまでも待ってくれるわけではありません。その話も消えて、振り出しに戻りました」

--条件にこだわった結果、UVフランクフルトからオファーがあったということですか。

「そうです。運に恵まれました。UVフランクフルトはドイツの中でも強豪のチームだと思いますし、昨シーズンは柳田(将洋)選手がプレーして日本でもよく知られているチームなので、モチベーションが上がりました。そういうチームと契約できてすごく嬉しいです」

--海外挑戦はいつ頃から考えていたのですか。

「昨年の秋頃からです。(日本代表に選ばれて)ネーションズリーグ2019に参加しましたが、第1週だけでした。翌週以降はメンバーから外れて、東レに戻っていました。もう一度、合流したいという気持ちを持ち続けていましたが、呼ばれることはなく、その頃から考え始めました。結構悩みましたが、2020年度の代表選考で外れたことが最終的に決断するきっかけになりました」

--古賀太一郎選手(今季はFC東京)ら、海外のリーグで活躍するリベロの影響を受けたのでしょうか。

「話を聞くことはありましたが、みんなが行っているから、というわけではありません。僕にはもう一度代表に復帰してオリンピックを目指すという大きな志があります。復帰するには、実力勝負の、より厳しい環境でプレーして、今の自分にないものを身につけなければいけないと思い、海外リーグでプレーするという決断をしました」

--東レアローズにとって井手選手の移籍は痛手ですよね。

「僕が抜けると、リベロは今年入った山口(拓海)選手しかいないので、リーグをフルに戦ったことがないという部分でチームにとっては不安があると思います。『来季はレギュラーで考えているから』と言っていただきましたが、自分としてはどうしても先延ばしにすることができなくて、意思を通させてもらいました」

 

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2019-20シーズンは東レアローズに在籍中、最も多くのセットに出場した。

ディグのスキルアップと、リズムを作れる選手になることが目標

--2020年度の代表選考から外れたことを知ったのはいつ頃ですか。

「今年の年明けあたりです」

--東京五輪の延期が検討される前ですね。

「そうです。予定どおり、今年行われていたら僕は選ばれなかったでしょう。そこで後悔したんですね。もっと自分がやりたいことをやっておけばよかったと。年齢的にもオリンピックを目指すとしたら、次のパリが最後かなと思うので、残りの時間は自分が思うような目指し方をしたいと思いました」

--不完全燃焼だったのですか。

「東レに入団が決まり、内定選手で試合に出していただきました。以来、良い経験をたくさんさせていただいて感謝していますが、あまり試合に出られないシーズンもあり、悔しい経験もたくさんしています」

--例えば、どんなことが思い出されますか。

「ワールドグランドチャンピオンズカップ2017でベストリベロ賞をいただいて、自分の中では自信がついていたんですよね。その自信をもってVリーグに入っていけると思っていたのですが、あまり試合に出られなくて、消化不良のような感じがありました。その後も、自分は良い状態なのに、試合に出られないということがありました。試合に出られないのは、自分がチームにとって絶対に必要な選手になれていない、ということ。自分の実力不足が原因なのですが、簡単に割り切れなかったです。新しい環境を求めた直後に、東京五輪が1年延期になったことは、僕にとっては運がよかったと思っています。こうなったらもう1回、狙うしかないというか、今はそれしか考えていません」

--先ほど話していた「今の自分にないもの」とは、どんなものですか。

「ディグをもう少し頑張らなければいけないと思っています。ここ2年くらい、(代表チームのリベロは)ディグ力が評価されているような気がするので」

--確かに2019シーズンは、ディグを得意とする山本智大選手(堺)が最後まで残りましたね。

「結果を残した人が残っていく世界だと思うので、試合で結果を出した山本選手が残るのは当たり前ですよね。僕はそういう評価には至らなかった。つまり自分は実力が足りなかった。そう受け止めています。だから、自分が変わらなければダメだと思いました。ディグには相手のスピードやパワー、高さが関連するので、日本のリーグよりも外国人選手の球を数多く受けられるであろう海外リーグでプレーして、慣れたいという思いがありました。また、(チームプレーにおける)リズムを作れる選手になる、ということも意識しているところです」

--サーブレシーブにしてもディグにしても、リベロは攻撃の起点となるプレーにかかわることが多いですからね。

「パス(サーブレシーブ)の仕方もそうですし、トスにしても1本の質が大切だと思っています」

--コミュニケーションが重要になりますが、勉強していますか。

「ドイツでのコミュニケーションは英語になると思います。僕は中学校時代から英語が好きで、特にリスニングは苦手意識がないんです。結構わかるんですよ。だからなんとかなると思っています。スピーキングはつたないところがあるので、独学で勉強しています。ただ、エージェントとやりとりをしていると略語を結構使うんですよね。僕が勉強している英語と少し違うので、実際に話してみないとわからないのかな、と。ドイツに行ったらどんどんコミュニケーションをとっていくのが一番かなと思っています」

--いつ頃、ドイツへ?

「必要な手続きが済めば、すぐに行く予定です。最短で18日(火)にも渡欧できそうです」

--これからの戦いにどのようなイメージを描いていますか。

「チームにもう1人、リベロ(Kyle Dagostino選手/アメリカ)がいますので、まずはライバル争いに勝って、試合に出なければ始まらないと思っています。実力主義は、負けず嫌いな自分に合っていると思うので、レギュラーポジションを獲得した上で、チームの優勝を目指してやっていきたいです。僕のポジションは自分で点数を取れるポジションではないので、チームをどのくらい動かせるかを見てもらうには、チームとしても結果を出す必要があると思っています。(来季の日本代表に選んでもらうには)少なくともメダル圏内に入らなければいけないと思っています」

--良い再スタートが切そうですね。

「運もあったと思います。いろいろな巡り合わせがある中で、日本人選手をわかってくれているチーム。しかも昨季上位のチームからオファーをもらえたので、このチャンスを生かさなければいけないと思っています。すべてをひっくるめて頑張りたいと思っていますので、応援よろしくお願いします」

 

井手 智(いで さとし) 1992年1月16日生まれ/長崎県大村市出身/リベロ/174cm・74kg/長崎県立大村工業高校→東亜大学→東レアローズ→ユナイテッド・バレーズ・フランクフルト(ドイツ)/内定選手として出場した2013/14V・プレミアリーグで活躍し、2014年に全日本初選出を果たした。その後、2016/17V・プレミアリーグで日本一を経験。中垣内ジャパンにも2017年以降、3年連続で名を連ねた。2017シーズンはワールドグランドチャンピオンズカップでベストリベロ賞を受賞している。

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