「短距離の選手が、次の大会で100mを9.9秒で走るという目標を立て、努力を重ねてそれが実現できたら素晴らしい。たとえ9.8秒台の選手が3人いてメダルを逃したとしても、その素晴らしさは変わらない」
Vリーグで優勝した時、豊田合成(現ウルフドッグス名古屋)のアンディッシュ監督(当時)は語った。
だから、ウルフドッグスの選手は、未だに目標を問われても、決して「優勝」とか「勝つ」という単語は使わず「自分たちの目指しているバレーを実現すること。目標としている数値を達成すること」としか答えない。それができれば勝つことができるだろうし、できなければ負ける。非常にシンプルな考えだ。
日本代表も同じ。まずは自分たちがどんなバレーを目指し、それをいかに試合でできるか。当然、相手も同じことを考えていて、互いにそれをさせないように工夫をしてくる。日本代表はまだ世界のトップに肩を並べたとは言えないが、そうなれる可能性を秘めた戦いを展開しいてる。
それがテレビや会場で観ている人にも伝わっているのではないだろうか。ネット上での書き込みも、ワールドカップが始まる前と、開幕戦のイタリアとの試合の後で、180度と言っていいほど変わってきた。観客席に男性の姿も増えている気がする。「キャーッ!」という歓声にかき消されてはいるが、そこかしこから「おぉー!」という声が聞こえてくる。
男子バレーと女子バレーは今や別の競技とも言える。止まった状態から2歩で3~4メートルを移動し、相手のサイド攻撃にブロックに付けるのは男子の体力、筋力、瞬発力があってのこと。そして、それができてこそのトータルディフェンス。その結果、今や男子の方がラリーが長いという分析結果もある。
世界の選手の中には最高到達点が370cmを超える選手がいる。日本人でも350cm。その高さ(実際の打点はボールの中心で計ることと、体より前でボールをとらえるため、最高到達点より30cm程度低いが)から時速100km前後のスパイクに反応してレシーブ。それを切り返して攻撃を仕掛ける。瞬時に攻守が入れ替わり、一瞬の判断とテクニックを駆使する。時には体に当ててボールを上げることがあれば、ブロック時に頭や顔にスパイクが直撃することもあり、迫力でも他の競技に引けを取らない、興奮するスポーツだ。会場で観ると、驚くほどの打球音が伝わり、さらにその迫力は増す。

今夜の試合は世界ランキング2位のアメリカとの対戦。同時間帯にラグビーの日本対サモアも行われ、さらにフィギュアスケートのジャパンオープンも放送される。スポーツ好きには悩ましい一夜だが、ぜひ男子バレーに目を向けてほしい。
男子バレーはおもしろい!