「バレーボール観戦が好き」という方の多くは男子よりも女子のバレーをよく観るのではないかと思います。「女子のほうがラリーが続くから面白い」という声をよく耳にしますが、現在は男子もラリーが続きます。なぜなら《トータルディフェンス》という考え方が浸透し、確立されているからです。第3回の今回は、トータルディフェンスで重要な役割を担っているミドルブロッカー(以下MB)について解説します。
より長身の選手が求められるポジション
MBの役割は2つあります。1つはAクイック(セッターのすぐ前の、トスと同時、あるいはそれより早くジャンプして打つ攻撃)、Bクイック(セッターから2~3メートル程度離れて打つクイック)、Cクイック(セッターのすぐ後ろから打つクイック)、ブロード(センターや時にはレフトからライト側のアンテナ近くまで走って打つクイック。たいていの場合左足だけで踏み切るため「ワンレッグ」とも呼ばれるが、男子のトップレベルではやる選手は少ない)などの攻撃をすることです。相手ブロッカーがブロック体制を完成する前に打てるクイックは、それだけでかなり有利な攻撃です。同時に、相手ブロッカーの気を引く、つまりは“おとり”になることによって、それ以外のスパイカーのブロック枚数を減らしたり、ブロックの形を崩したりする効果があります。

2つ目は、ポジションの呼び名に象徴されるようにブロッカーとしての役割です。特別な状況を除いて、前衛3人の真ん中にいることにより、左右どちらからの攻撃に対してもブロックに参加します。そのため、背の高い選手が有利といわれるバレーボールの中でも、特に長身者が求められるポジションです。
ブロックは最も複雑なプレーであり、日本代表チームにも10通り以上のブロックサインがありますが、ここでは大まかに3つブロックの種類を紹介します。
・リードブロック
セッターが上げたトスを見て、ボールが上がったところに移動して跳ぶブロック。ボールを追っていくため完全なブロックの形は完成できないこともありますが、ブロックという壁の幅を増やすことができます。
・コミットブロック
スパイカーに合わせて跳ぶブロック。特にクイック攻撃では相手スパイカーの打つコースをふさぐことでキルブロック(ブロックによってポイントすること)の確率は高まりますが、クイックにトスが上がらなかった場合はブロッカーとしての役割を果たせません。
・ゲスブロック
ゲス(guess)は「推測する」という意味。ブロッカーがトスが上がるところを推測して動くブロックで、現在のトップレベルのバレーボールではやってはいけないプレーとなっています。
時にはギャンブル的にあえてコミットで跳ぶこともありますが、基本的にはリードブロックを採用しているチームがほとんどです。そして、このリードブロックの確立こそが《トータルディフェンス》の要となるのです。
ミドルブロッカーは守備の要
男子トップレベルの選手が放つスパイクは時速120kmにも及びます。時速100kmのボールが7メートル先まで届く時間は約0.26秒(空気抵抗を加味しない場合)。非常に高速なので、“たまたま”手の届くところに来ない限り、レシーブするのは非常に困難です。それを“たまたま”ではなく、高い確率でレシーブするために欠かせないプレーがブロックです。ブロックによってノータッチで抜けてくるコースを限定し、そこにレシーブをすべき選手がポジショニングすることで、ディグ(スパイクレシーブ)をする。あるいはブロックタッチで勢いを殺したボールを拾える確率が高まります。さらにサーブで相手のレシーブを乱し、攻撃できるスパイカーや攻撃の種類を絞り込めれば、3枚ブロックに付くことができるので、自チームのトランジション(相手の攻撃を拾って攻め返すこと)の確率を高めることができます。サーブで崩す→ブロックでコースを限定させる→拾う。この一連が《トータルディフェンス》です。
相手チームのスパイクをドカン!と真下に止めるキルブロックが出ると確かにチームも観客も盛り上がります。しかし、ブロッカーの一番の役割はキルブロックではありません。かつて豊田合成トレフェルサ(現ウルフドッグス名古屋)で指揮を執ったアンディッシュ監督(当時)は「キルブロックは相手のスパイクミス」であると言い、MBにそれを求めることはありませんでした。トータルディフェンスを確立するために、MBはリードブロックで相手のどの攻撃に対しても常に2枚以上のブロックに付き、コースを限定させるためのブロックを求めたのです。

いかにレシーブして攻撃に転じるか。そのためのブロックなので、先述したようにブロックシステムは複雑です。相手スパイカーによってはMBとセッターがスイッチして、MBがストレート側に跳んだり、戦術として、あえてコミットで跳び「クイックを意識している」ということを相手セッターに見せたりします。相手のサイドへの速いトスに追いつけなかったときは、サイドのブロッカーの間が1メートル空いていても無理に追いつこうとせず、その場でブロックの形を完成させることもあります。ブロッカーの陣形もさまざまで、3人が真ん中に寄っていたり、それぞれに散っていたり、レフト側に寄っていたりその逆だったり、2人は固まって1人だけ離れていたり…。それらはチームの約束事として試合前から決めていることもあれば、シチュエーションに応じてMBの出すサインで決められることもあります。
ムセルスキー選手(ロシア)は「MBは攻撃にしても、ブロックにしても駆け引きができるから面白い」と言います。いろいろなことを考えてプレーしているMBの動き、特にブロック時の横移動がよく見えるのはエンドライン後方からです。テレビや配信ではサイドライン側からの映像がほとんどですので、ぜひ会場に行って、MBの献身的な働きに注目してみてください。
※この記事は男子バレーを基準に書いています。
※バレー観戦初心者でもわかりやすいように「テンポ」や「ゾーン」などの用語は避けています。