バレーボール国内最高峰の大会、新生Vリーグ(V1)で頂点に立ったのはパナソニックパンサーズだった。長年パナソニックを牽引してきた清水邦広(オポジット)、福澤達哉(アウトサイド)のコンディションが万全ではない中で、日本代表の大竹壱青(オポジット/入団1年目)、久原翼(アウトサイド/入団2年目)がシーズンを通して力をつけて歓喜の瞬間をコート上で味わった。久原は昨シーズンもファイナルを経験しているが、ユーティリティープレーヤーとしてベンチスタートすることが多かった昨季とは一味違う優勝だったに違いない。表彰を終えたばかりの久原に話を聞いた。
必死にプレーして優勝できた。少し自信がついた
―振り返えると、どんなリーグでしたか。
「最初はうまくいかないことのほうが多くて、チームの役に立っているかどうかがわかりませんでした。苦しい時もありましたが、そういう時に先輩方が声をかけてくれて、それに応えたいという気持ちで必死にプレーして優勝できたので、ひとまずよかったなという思いです」
―やりきったという感じですか。
「いいえ。まだまだだなと思うことのほうが多いです。ただ、ミスは少しずつ減っていると感じていましたし、後半は難しい場面でもミスをしないで次につなぐことができていたので、そこは少し成長した部分かなと思っています」
―ファイナル第2戦の前に深津選手から「エドガー選手(トーマス/212cm・最高到達点360cm)とマッチアップした時に、おそらく1枚ブロックで対応してくると思うからトスを上げるよ。エドガー選手が前にいてきついかもしれないけどなんとかしてくれ」と言われたそうですね。そして「確実に決めてくれた」と深津選手が話していました。
「チームの一員として役割を果たさなければいけないという思いでプレーしました」
―自信がついたのでは?
「(エドガー選手の高さにしても)試合に出ないと体験できないことが多いですし、体験しないとわからないことも多いので、試合に出してくれたスタッフの皆さんや支えてくれるチームメイトに感謝しています」
―やはり実戦は違いますか。
「パナソニックの皆さんはレベルが高いので、練習をしているだけでも自分のレベルがどんどん上がって行くと思いますが、外国人選手の高さは実際に戦ってみないとわからないと思います」
―クビアク・ミハウ選手とチームメイトとして一緒に戦うことについてはいかがでしょうか。力になっていますか。
「尊敬すべき選手です。技術面はもちろんですが、それだけでなく、メンタル面でも本当にチームを引っ張ってくれていると感じます。クビアク選手がなぜ結果を残せるのか。その要因としてもメンタル面が大きいと思います。そういう部分を毎日毎日見られるというのは僕にとっていい経験です」
―川村慎二監督が久原選手の今リーグの成長について「Aチームに入ると自分を守るというか、闘争心を出さない選手だったが、試合を経験するうちに闘争心を出すようになった」と話していました。確かにこれまでの久原選手は内に秘めている闘志をコート上であまり表現せず、クールにプレーしているイメージがありましたが、変化を感じていましたか。
「試合に出させていただく中で少し気持ちも変わってきたというか。リーグ戦は毎週毎週試合があるので、そこに向けて気持ちを作っていくことは、先輩方を見ながら学んできました。コート上で気持ちを出すことの必要性も感じています。まだまだ自分一人ではできないのですが、努力していきたいと思っています」
―3年連続で日本代表に選ばれました。今年は少し気持ちが違うのでは?
「そうですね。去年は合宿に参加させてもらったものの不完全燃焼というか、自分のやりたいことができずに合宿が終わってしまいました。悔いの残る合宿になったので、今年は自分のやりたいこと、できることを精一杯やるということをテーマにして頑張りたいです」
―なぜ、不完全燃焼で終わってしまったのでしょうか。
「単純に実力不足もありますし、去年のリーグはベンチから代表合宿に参加している選手を見ている状態だったので、気持ちの部分でどこか引いていたというか。代表合宿というのは世界と戦い、勝つための合宿です。そういう気持ちのある選手が集まるところなので、僕の気持ちがついて行けていなかったのだと思います」
―今年は飛躍の年にしたいですね。
「今リーグは試合に出て、代表合宿に参加する選手と対戦する機会が増えました。それは少なからず自信になっています。去年のような悔いの残る合宿にはしたくないので、少しでも成長した部分を見せたいと思います」
―目標は変わりましたか。
「今はまだ、代表のことは考えられないというのが正直なところです。まずはパナソニックで常に使ってもらえる選手になることが目標です。福澤さんをはじめすごい選手がたくさんいますが、そこで自分が『福澤さんが出て当たり前』と思ってしまったら終わりです。福澤さんもそんな風に考えて欲しくないと思っていると思うので、日々の練習を大切にステップアップしていきたいです」

世界が認めるクビアクを多角的に探求する久原。
代表での活躍に期待が高まる
昨シーズンの優勝から1年。2度の優勝に貢献したクビアクにその違いを尋ねると「今回の優勝は若い選手たちがシーズンを通して一生懸命練習を積み重ねてきた証」と表現した。「自分が一番大事に思っているのは若い選手一人ひとりの練習に向かう気持ち。うまくなりたいという気持ちがあればきちんと練習すると思う。チャンピオンになってもそれが大事。他チームはこれまで以上に勝ちたいという気持ちで臨んでくるので、私たちもこれまで以上に学び、練習を積み重ねていくという姿勢をもって取り組んでいかなければいけない」と続けた。
要は「練習したいのか、したくないのか。自身の気持ちが成長の鍵を握っている」というクビアク。本質に迫るその言葉しかり、コート上だけでなく、そこに立つための準備も共にできるパナソニックの選手たちが、どれほどのことを学べる環境にあるか想像がつくだろう。クビアクと同じポジションの久原は技術面で学ぶところも多いだろうが、今回のインタビューで世界が認める“一流”を独自の視点で探求していることを知り、久原のこれからがますます楽しみになった。

久原翼(ひさはらつばさ)
1995年3月18日生まれ(24歳)/兵庫県尼崎市出身/市立尼崎高→東海大学/188cm・最高到達点345cm/サーブレシーブを得意とする攻守にバランスのとれたアウトサイドヒッター。2016年から3シーズンに渡り日本代表に選出される/2012アジアユース(キャプテン)、2013世界ジュニア、2014アジアカップ、アジアジュニア(キャプテン)、2015アジアU23、世界ジュニア(キャプテン)、2016アジアカップ(キャプテン)、2017東アジア地区選手権、ユニバーシアード競技大会代表/兄の久原大輝選手はJTサンダーズに所属。ファイナルでは兄弟対決がかない「日本のトップを競う舞台で戦えるのは幸せなこと。家族にも恩返しができているのかなと思う」と話した。
