昨年10月26日(金)に幕を開けたバレーボールのVリーグ(V1)はレギュラーラウンド終盤を迎えている。2月10日(日)現在、ファイナル6進出を決めているのはパナソニック(1位通過)とサントリーの2チームのみ。天皇杯から12連勝と好調を維持していたJTは、あと1勝でファイナル6進出が決まるが、2月3日(日)のパナソニック戦から3連敗。パナソニック、サントリーも星を落として順位争いは混沌としている。
勝岡将斗が加わりアウトサイドが安定。上位通過を狙う豊田合成
番狂せが起きる要因の1つに、今年も内定選手(大学4年生)の活躍がある。リベロ古賀太一郎(ポーランド)、川口太一(フィンランド)を海外に送り出し、古賀幸一郎に代わる人材が不在だった豊田合成は、天皇杯から小川智大(明治大学4年/リベロ・レシーバー/175cm)をベンチ入りさせた。続いて1月6日(日)の大分三好戦から勝岡将斗(大阪産業大学4年/アウトサイド/182cm/最高到達点340cm)をコートに送り込むと、バレーの名門・崇徳高校に入学した時からVリーグのコートに立つことを目指してきた勝岡は、スタメンの一角を奪う勢いでチームの期待に応えた。身長こそ低いが、豊かなジャンプ力と、サーブレシーブから攻撃に参加できる機動力が持ち味。なによりサーブレシーブに定評があり、「高校時代に鍛えられた」というオーバーカットにも自信を持っている。攻守にそつのない勝岡が戦力に加わったことにより、エース高松卓矢がコンディションを落とした際に休ませることができた。もう一人のアウトサイド白岩直也はライバルの出現に奮起し、得意の守備だけでなく攻撃でもいいところを見せている。1月27日(日)のサントリー戦で、大砲オムルチェン・イゴール(オポジット)が、第1セット途中でケガをしてコートを退いたが、このピンチにオフェンシブなアウトサイド山田脩造をオポジットに起用することができたのも勝岡がいたからだ。山田は椿山竜介(オポジット)と2人でイゴールが抜けた穴をしっかり埋めて、勝利に貢献した。イゴールはまだ復帰していないが、2月10日(日)のパナソニック戦も、アウトサイドでは白岩と勝岡を、オポジットでは椿山と山田をうまく起用しながら勝利し、上位通過に向けて弾みをつけている。

樋口裕希のマルチな才能が開花。ファイナル6進出に食らいつく堺
開幕以来、白星が伸び悩んでいた堺と東レも、力のある内定選手の活躍で息を吹き返している。堺は昨秋、パナソニックを退団した全日本のセッター関田誠大を獲得したものの、サーブレシーブがリーグ最下位と振るわず、その成果を実感できずにいた。サーブレシーブは主にリベロ山本智大と2人のアウトサイドで行うが、高野直也(アウトサイド)の負担が大きく対角に苦心していた。そこに現れたのが樋口裕希(筑波大学4年/191cm/最高到達点343cm)だ。チームに合流後、わずか1週間で、真保綱一郎監督は高野の対角に起用する決心をした。大学ではミドルでプレーしていたが、大学1年の頃、世代別日本代表の指導者がシニアへの近道と判断し、代表(2015年世界ジュニア、2016アジアカップ、2017アジア、世界U23選手権などに出場)ではアウトサイドに起用されてきた。練習熱心で苦手なプレーがない。特にブロックは判断、位置取り、タイミング、フォーム…すべてが秀逸だ。筑波大学の秋山央監督は「ミドルでも日本を代表する選手になれる」と太鼓判を押す。樋口自身も、昨年のアジアカップで初めてミドルを任され、フル出場して銅メダル獲得に貢献したことからミドルにもやりがいを感じているが、卒業後はアウトサイドを希望し、堺側もそれを受け入れて入団に至った。とはいえ、開幕前に真保監督は「今リーグ、出番があるとしたらミドルだろう」と話していた。思い切った起用に至った背景には前述のチーム事情に加え、4年前から次のステージを見据えて大学でもポジションの壁を超えた練習を行っていたことが大きい。デビュー戦となった1月19日(土)のパナソニック戦こそ、実戦でのレフトのトスに苦しんだが、課題の修正に余念がなく、試合を重ねるごとにスパイク決定率は上昇。得意のブロックとサーブでも大きくチームに貢献し、樋口がスタメンに定着して以来、堺は今季連敗していた東レを破るなど初の4連勝でファイナル6へ望みをつないだ。2月10日(日)サントリーに敗れて連勝はストップしたが、この日の打数はジョルジェフ・ニコラ(オポジット)に次ぐ25本。「今日もスパイクを打つ時に相手ブロッカーが見えていた」と自信を深めており、早くもチームの軸になりつつある。

酒井啓輔が落ち着いたトスワークを披露。ホームで貴重な2勝をものにした東レ
その樋口と大学でコンビを組んでいたセッター酒井啓輔(東レ/筑波大学4年/187cm/最高到達点330cm)も、1月26日(土)の堺戦でデビューを果たした。東レには全日本のセッター藤井直伸がおり出番こそ少なかったが、「樋口の活躍が刺激になる」と意欲は十分。テンポのいいトスワークで即戦力をアピールしてきた。2月10日(日)のJT戦では藤井がプレー中に手を痛め、第1セット早々にコートを退くアクシデントがあり、その後を任された。「急だったので緊張したが力のある先輩ばかり。アタッカーが打ちやすいトスを心がけた」という。その結果、酒井特有のふわっとしたトスがアウントゥ(アウトサイド/190cm/最高到達点345cm)や高橋健太郎(ミドル/201cm/最高到達点355cm)のポテンシャルを引き出し、アウントゥはチーム最多の24得点(スパイクでは29打数19得点/決定率65.5%)。高橋健太郎も外国人選手2人に続く10得点(スパイクでは6打数5得点/決定率83.3%)をあげてチームの勝利に貢献した。酒井は2015年の世界ジュニア、2016アジアカップ、2017ユニバーシアード大会に出場。高さのあるセッターとして将来を期待されながらも、大学時代は1つ上に中根聡太(ジェイテクト)がいたため、3年生まではベンチを温めることが多かった。4年生になってチームを背負うと実戦の中でさまざまな課題にぶつかり、夏場にトスワークを基礎から鍛え直すという勉強の1年を過ごすことになったが、その成果がVリーグの舞台で出た。藤井のケガが完治するまではスタメンでコートに立つことになる。「藤井さんがいないから負けたと言われるのは嫌。(スピードが身上のミドル)李(博)さんとのコンビをしっかり作って頑張りたい。高さも持ち味なのでブロックでも貢献したい」と目を輝かせていた。

内定選手の起用はあるか、上位チームとの対戦を迎えるジェイテクトの采配にも注目
東レ、堺とともにファイナル6進出に向けて負けられないジェイテクトは、セッター小林光輝(早稲田大学4年/173cm/最高到達点325cm)の起用に注目したい。重要なポジションだが、増成一志副部長は「起用してもおもしろいのでは?」と話す。「小林は大学時代に左利きのオポジット宮浦健人(早稲田大学2年)へ速いトスを上げていた。西田有志も速いトスが好きだから(小林のトスは西田を)生かせると思う。チームに合流して日は浅いが、代表経験のあるセッターは短期間でコンビを作る術を知っている。小林も2018アジアカップで正セッターを経験し、成果をあげているので問題ないと思う」と続けた。チームの指揮を執る高橋慎治監督もセッター出身だ。相手チームにとってデータのない小林をどう使うのか。もう一人の内定選手、藤中優斗(早稲田大学4年/アウトサイド/182cm/最高到達点325cm)も含めて、今後の采配が楽しみだ。

【今週の対戦】
2月16日(土)
・東京・大田区総合体育館/FC東京vsJT ジェイテクトvsサントリー
・富山・氷見市ふれあいスポーツセンター/豊田合成vs東レ 大分三好vs堺
・長野・松本市総合体育館/VC長野vsパナソニック
2月17日(日)
・東京・大田区総合体育館/JTvsジェイテクト FC東京vsサントリー
・富山・氷見市ふれあいスポーツセンター/東レvs大分三好 豊田合成vs堺
※レギュラーラウンドは2月24日(日)で全日程が終了し、順位が決定。上位6チームが3月9日(土)から始まるファイナル6に進出する。
(文:金子裕美)