10月26日(金)に開幕した新Vリーグ。V1(V.LEAGUE Division1)に続き、11月10日(土)にV2(V.LEAGUE Division2)、V3(V.LEAGUE Division3)が幕を開け、2019年4月14日(日)まで、毎週のように全国各地でバレーボール最高峰の戦いが繰り広げられる。
Vリーグ機構は新Vリーグ発足に際し「バレーボールのスポーツビジネス化を推進し、Vリーグ並びにバレーボールの価値をさらに高め、バレーボールを日本のトップアリーナスポーツへ押し上げ、世界につながる、世界一のバレーボールリーグを目指す」という方針を打ち出し、今シーズンよりホームゲームの運営を主催チームに委ねた。反応はさまざまだが、チームのホームタウンを中心に存在を認知してもらうことから始めようと、選手を巻き込んだ大会づくりに動き出している。
Vリーグのプロ化を見据えて、2016年にプロ球団として誕生したヴォレアス北海道(V3)は、「スポーツを文化に、そして喜びを」という理念を掲げて、創立当初から独立独歩で地域に根づいたチームづくりを進めてきた。この機に「新リーグへの思いを語り合いたい」と、ヴォレアスの本部長であり、チームの運営を担う株式会社VOREAS 代表取締役社長の池田憲士郎氏がまず声をかけたのが、豊田合成トレフェルサ シニアゼネラルマネージャーの横井俊広氏だった。豊田合成トレフェルサはVリーグ機構の方針に賛同し、いち早くチームの運営を担うTG SPORTS株式会社を立ち上げ、横井氏はその取締役社長に就任している。ヴォレアスが8月に行った独自イベント「V-THEATER2018」にも参加しており、今回、このような対談が実現した。
「ヴォレアスの招待試合で僕らが目指すべき姿を見た」横井社長
池田社長(以下敬称略) 8月の「V-THEATER2018」では豊田合成さんとのイベントマッチを企画させていただきました。ご協力をいただいてから、横井さんとはいろいろお話させていただく機会があり、お話が興味深かったので、今回は発信させていただく前提で新リーグへの思いや考えていらっしゃることをお話いただければと思います。
横井社長(以下敬称略) こちらこそヴォレアスさんのイベントに参加させてもらい、いろいろと触発されています。ホームゲームのハードルも上がってしまいました。すごく努力されていますよね。僕は「バレーボールプラス」と表現しているのですが、バレーボール競技の素晴らしさだけでなく、そこに思いを乗せることが大切だと思っています。V-THEATERでは、お客様に楽しんでいただくことにものすごく一生懸命取り組んでおられるということがよくわかり、見習いたいなと思いました。
池田 ありがとうございます。どのようなところが目に留まりましたか。
横井 私たちは試合が始まる時間を「開始時間」と言いますが、「開演時間」と表現していましたよね。まさにヴォレアス劇場という仕立てなのでしょう。エンドラインの奥のステージをうまく使い、照明もドラマチックに工夫していらっしゃるのを見て、これが僕らの目指していく姿だと思いました。
池田 ありがとうございます。最近、大学に呼んでいただき、学生さんに向けて話をする機会があるのですが、そこでよく「スポーツチームのチケットやグッズを買うお金の出所(項目)はどこか」という話をします。趣味の費用なんですよね。趣味の費用を増やしてもらうか、趣味の中でバレーボールに割く費用を増やしてもらわなければ僕らの収益は上がっていきません。例えばディズニーランドに行くとか、ライブに行くとか、他のスポーツを観に行くとか。今、それらに流れているお金をバレーボールに向けてもらうためにも、ああいうエンターテイメント性のあるイベントに仕立てて、バレーボールが好きな人だけでなく、普段バレーボールは観ないけど楽しそうだから行ってみようかなという人にも興味を持ってもらう必要があります。週末に「どこに行こうか、バレーでも観に行こうか」となれば嬉しいですね。単なるバレーボールの試合ではなく、さまざまな工夫をすることで、バレーボールを応援してくれる人の裾野も広がっていくのではないかと考えています。
横井 なるほど。そうですよね。
池田 そこであのイベントの後、サッカーを観るためにドイツとオランダに行って来ました。スポーツ文化がもっとも成熟しているのはヨーロッパのサッカーだと思ったからです。ドルトムントの開幕戦を観戦しました。W杯日本代表の酒井豪徳選手が所属する、ハンブルガーSVというチームのマーケティング担当の方ともお話をさせていただきました。
横井 勉強になりましたか。
池田 はい。百聞は一見にしかず、です。向こうの人たちは週末になると自然とスタジアムに足を運びますよね。日本でもそういう流れを作るにはどうすべきかを考えています。
横井 私は5年間、カナダに駐在したことがあります。その時はメイプルリーフセンターにアイスホッケーの試合を観に行くのが楽しみでした。1人300~400ドルもするのにチケットがなかなか手に入らないんです。家族全員で観に行くと20万円くらいかかるのですが、それでも年2回くらい行っていました。盛り上げる仕掛けがいろいろあってワクワクするし、興奮するし…。ぜひまた行きたいと思わせる何かがあるのです。楽しいのです。あの高揚感をバレーボールの現場で再現したいと思っています。
池田 横井さんはどのような方向性でホームゲームを企画しているのですか。
横井 今、考えているのは、演出の仕方を工夫して競技そのものを魅力的に見せることと、ホームチームの一体感を創り出すことです。日本のバレーボールは非常にかたいスポーツの1つだと思います。東洋の魔女以来の伝統があるので、それはそれで大事にしなければなりませんが、池田さんがおっしゃるように、どうしたら観客の皆さんにワクワクしていただけるか。楽しんでいただけるか。そこを追求し、どんどんチャレンジしていきたいと思っています。8月のヴォレアスさんとの試合もお客様が盛り上げてくださいました。あれも池田さんたちが、お客様が盛り上がれる仕掛けをしているからだと思います。ああいうことを僕らもやりたいのです。
池田 お客様からの声援は選手に影響を与えるらしいですよ。
横井 僕はそれを試合で実感したことがあります。2014年の長崎国体の決勝戦です。地元の長崎県を相手に1、2セットを連取して、第3セットも15点あたりまで僕らが主導権を握っていましたが、相手に1点入るたびにワーッと会場が盛り上がるのです。それがどんどんエスカレートして、ファイナルセットは異様な盛り上がりでした。結果的に僕らは逆転負けしました。観客の情念が選手に乗り移ったかのように、ガラガラと崩れて負けたのです。あれには本当に驚きました。応援のもつ恐ろしさというか、力を感じた試合でした。
池田 ホームゲームはそのくらいのほうがおもしろいのではないでしょうか。
横井 今はまだ完全なホーム&アウェイになっていないので難しいですが、何年か後にはそのような形にしていきたいですね。
池田 海外のサッカーは相手がゴールしたらブーイングなんですよ。加熱したファンがバスを襲撃するなどやりすぎなところは勿論問題ではありますが、双方にホームゲームがあるわけですから、ホームゲームでは相手が戦意を喪失するくらい応援する、というほうがおもしろいのではないかと思います。それぞれのホームゲームが盛り上がればバレーボールへの注目度も高まっていくと思います。
横井 私は一昨年イタリアリーグのパドヴァ(セリエAに所属する男子バレーボールクラブチーム)の試合を観に行きましたが、やっぱりホーム感はすごいですよね。試合が終わると観客が一斉にコートに出てきて選手とインタラクション(※)する姿を見て、「あぁ、いい光景だなぁ」と思いました。ぜひうちもああなりたいと思います。そのときに小学校高学年くらいの女の子がネットに向かってジャンプして、その高さを実感していたんです。今の日本のやり方ではそれはできませんよね。ですから、ホームゲームではもっともっとオープンマインドでやっていかなければならないと考えています。
※インタラクション:interaction。互いに影響を与え合うこと

「ジュニアの育成は部活動との折り合いが課題」池田社長
池田 ジュニアの育成についてはどのようにお考えですか。
横井 シニアチームとの連携をさらに強めていこうと考えています。これまではジュニア専任のスタッフが指導し、シニアのスタッフはジュニアにあまりかかわっていませんでした。それではもったいないですよね。トップリーグであればこその、何らかのエッセンスをジュニアにも反映したい。その選手たちが、将来、うちのシニアに入るかどうかは別として、シニアを指導しているアンディッシュ(シニアヘッドコーチ)やトミー(監督)の薫陶を受けた深津コーチにはジュニアも兼務してもらい、ジュニアの時からシニアと同じコンセプトで同じようなバレーボールをやれる環境を作りたいと考えています。練習のやり方は変わるでしょうね。ひょっとしたらセレクションから変えていくことになるかもしれませんが、そうすることで、少しでも日本のバレーボールの底辺拡大に貢献できればいいなと思っています。ヴォレアスさんはどのように考えていますか。
池田 横井さんがおっしゃるとおり、シニアとジュニアが同じコンセプトでエド監督が監修のもと、アンダーカテゴリーを作ろうとしているところです。新年度あたりを目標に準備を進めています。エド監督に「日本はアンダーカテゴリーでは勝っているのにシニアはなぜ勝てないのか」と聞いたら「単純にスキルの練習をしているからだ」という答えが返って来ました。海外はクラブで一貫指導をしているので、年齢に応じた選手づくりが可能です。一方、日本は小中高大と小さなサイクルで回っていきます。ほとんどが大卒選手のため23歳で若手と言われますが、ヨーロッパでは16歳からプロになります。その頃にはプロの体とメンタリティーができ上がっています。そういう状態で戦って果たして勝てるのでしょうか。身長の差を理由にする以前に、ベースから見直す必要があると思っています。
横井 確かに、そういうことはあるかもしれませんね。
池田 もちろん部活動とどう折り合いをつけていくかは難題です。これから調整していかなければなりませんが、ヴォレアスのジュニアチームは、将来ヴォレアスに入る、もしくは世界で活躍する選手を育てていくことを目的としています。そこが学校の部活動とは異なるので、衝突することなく、選んでいただける環境を築いていけるのではないかと考えています。
横井 池田さんもおっしゃいましたが、今は高校、大学のシステムが日本のバレーボールを支えています。これを変えるのは一筋縄ではいかないと思います。我々は高校、大学の先生に育成していただいた選手をリクルートしているので、そこを忘れてジュニアの育成を推し進めていくことはできません。また、スポーツで抜きん出た人は、その道を極めていく過程で立派な人間として成長されると思います。大学進学がマストではなく、選択肢の1つだと思いますが、そうではない選手にとっては、大学生として大学生活を送ることが人生にとって大事なことなので、そこも大事にしながら進めていかなければいけないと思っています。
池田 そうですね。
横井 ただ、学校の先生の労働時間の問題もあって、中学校の部活が変わってきていますよね。私の甥っ子も入学前の学校説明会で「部活に期待しないでください」と言われたそう。部活動をやらない学校もあるのです。
池田 国の担当者の方も言っていました。「先生方に押し付けてしまったのは、国の責任。これからは外部の人に任せていく方向で進めていく」と。
横井 私もそれは感じていて、中学校までは地域とつながる機会が増えるのではないかと思っています。また、ジュニアの育成とは異なるかもしれませんが、バレーボール教室などの普及活動もしっかりやっていこうと、選手たちとよく話しています。指導者の方に向けたクリニックも同様です。
池田 学校の先生は本来の仕事があって、それ以外のところでバレーボールに携わらなければいけません。うちの監督も豊田合成さんの監督もプロなので、その力を生かしたいですよね。

「バレーボール以外の経験を積むことが大事。必ずリターンはある」横井社長
池田 豊田合成さんはなぜTG SPORTSを作ったのですか。
横井 Vリーグ機構が目指している姿がありますよね。その姿により近いものを会社形態でやってみようと思いました。親会社である豊田合成のトップも、志をもってトライしたいという僕らの意気込みを感じて賛成してくれました。もちろん難しい道であることはわかっています。商業化しても、一気に収益が上がる絵は描けませんが、まずはトライしてみようと思いました。トライしてダメだったら変えればいいじゃないかというくらいの気概で、もっともっと拓かれたチームに、もっともっと地域とつながるチームにするために、事業会社としてスポーツを取り巻くいろいろな活動をやってみようというのがそもそもの狙いです。
選手は豊田合成の正社員なので、TG SPORTSに出向という形です。オフシーズンに職場に受け入れていただくのも従来どおりです。会社では1つのことをずっと長くやり続けるのではなく、経験の範囲を広げることが求められます。TG SPORTSもコンセプトは同じです。バレーボールをしっかりやることはもちろんですが、それ以上にお客様に楽しんでいただくためになにをすべきかを考え、もてなしの心をもって実践していく。会場で観客の皆さんと触れ合って「握手してください」「頑張ってください」と声をかけてもらうだけでも、コートに立つ時の気持ちは違うと思います。ましてや働く仲間や子どもたち、地域でつながっている人たちの顔を思い浮かべながらコートに立つことができたら、必ずプレーに返ってきます。バレーボール教室などの普及活動も含めていろいろな経験を積むことは、選手の将来のキャリアにも、人生にもプラスになると信じているので、シーズンオフに職場に入ることを辞めるつもりはありません。そこは選手と共有できていると思います。
池田 海外に選手を出しているのも、そういう考えが根底にあるからですか。
横井 そうです。今シーズンは3人の選手(古賀太一郎、川口太一、新井洋介)を出していますが、それも会社員としての基礎を積み上げる時期に、多くのことを経験して欲しいと考えているからです。常時、誰かが外にいていろいろなことを吸収しているのはチームにとっていいことですし、日本にいる選手たちも経験の幅を広げることができるように指導者を海外から招聘しています。許されるなら国内のチームに選手を出してもいいと思っています。
僕はバレーボールの特性である、“つなぐ”“つながる”というところに魅力を感じているのです。それが「TG SPORTS」を立ち上げた理由の1つでもあるのですが、バレーボールを通じて人と人とをつなぐ、人と地域社会とをつなぐ…。海外ともつながっています。もっともっと多方面にわたりつながって輪を広げていきたいので、そういう意味でもすでにたくさんの企業や人々とつながって、いろいろなことをやっていらっしゃるヴォレアスさんは素晴らしいと思いますし、見習っていきたいと思っています。プロ球団といっても、僕らは親会社との結びつきがあるのでできることとできないことがありますが、嶋岡(健治Vリーグ機構)会長が考えていらっしゃる理想のVリーグの姿というのはそういうことだと理解しています。
池田 我々には母体がありません。それがメリットでもあるしデメリットでもあると感じています。選手にしても、スタッフにしても生活するため、チームが強く大きくなる為にはやはりお金が必要なので、ヴォレアスという球団を作り、バレーボールで収益化を図っていこうと考えて、一気に走り出して今に至っています。
横井 誰もやっていないことをやっていくのは簡単なことではありません。そういう高い志を持ってやっていらっしゃるのは本当に素晴らしいと思います。僕らも志は高くいきたい。だけど、(思い切ったことをやるには)もう少し市場が成熟してほしいのです。会社のチームであり、僕らにとって従業員さんとのつながりはすごく大事にしているところなので一足飛びには行けません。ようやく、先ほどお話した『バレーボールプラス』をスローガンに、少しエンターテイメントをホームゲームに持ち込んで、より地域の方とつながるプロモーションや、普及活動を進めているところです。
池田 僕らはピンチではなくチャンスだと思っています。例えばサッカーや野球は年間にホームゲームがたくさんあります。それだけあるから収益化できるという考え方が一般的な中で、仮に僕らが少ないホームゲームで収益化できたら、ものすごいノウハウを手に入れたことになります。過酷な状況だからこそ、日本のスポーツビジネスの中でも(バレーボールは)ものすごいチャンスがあると思っています。
今、日本のスポーツビジネスの市場は5兆円なんです。アパレル業界とほぼ同じ規模です。これが国の方策で2025年までに15兆円になると言われています。15兆円は鉄道やドラッグストアなど、生活により近い業界の規模になります。いわば成長産業なのです。僕はそこにすごく魅力を感じていて、今やるべきだと思っています。
バレーボールは背の高いチームが有利です。だから日本が勝つことは、世界から見ればレボリューションなのです。なぜ小さいのに勝てるのか。そういう考え方が僕はビジネスの世界でも重要だと思っていて、今やっていることは結構それに近いです。誰もができないと思っていることに挑戦しているからこそ、やりがいを感じています。
横井 いいですね。どんどん走ってほしいです。先に走ってもらえると、僕らもやりやすいので。他のチームもそう思っているんじゃないかな。
池田 やりたくてもできないチームもありますよね。僕は一気に走り出して、やらなければいけない状況を自分で作ってしまいましたが、かなりの覚悟と勇気が必要だと自分でも感じます。うちにはプロ契約の選手が何人かいますが、選手によく話すのは「契約形態にかかわらず、みんなプロである」ということ。お客様から見れば選手はみんな同じで、ヴォレアスの選手なので、「観に来てくれるお客様と、応援してくれる企業さんが出してくれたお金を、僕を通してみんなに払っているのだから、そういう意識でいてくれなければ困る」と話しています。
選手はプレーヤーズバリュー(バレーボール選手としての実力)とマーケティングバリュー(観客を呼ぶ力)の2つの視点で評価しています。セレクションでも同じです。そもそも実力(潜在能力も含む)が足りなければ選手になれないので、マーケティングバリューが重要です。マーケティングバリューとは、簡単に言うとその選手が何人のお客様を呼べて、満足させることができるかということです。方法論はそれぞれでかまいません。つまり各自の持ち味になります。マイクパフォーマンスやSNSの発信がうまいなど、いわゆるファンサービスが得意な選手はその能力をどんどん発揮してほしいと思っています。
横井 8月のイベントに参加させていただいた時に、(豊田合成から移籍した加藤)伊織選手を久しぶりに見ました。うちにいた時はどちらかというとおとなしくて、そんなに発言するほうではなかったので、司会をしたりパフォーマンスの解説をしたりしている姿に驚きました。ヴォレアスの中での彼の存在感やお客様とのインタラクションを含めて、素晴らしい機会を得ていることを実感し、すごくうれしかったです。伊織選手にも「ここにお世話になってよかったね」と言いましたが、彼はすごくいい移籍をしたと思います。もしあの時、あのままトレフェルサにいたら、彼の才能は引き出せていなかったのではないかと思います。
池田 豊田合成さんでの活動がベースにあったからだと思いますよ。
横井 黙ってバレーボールをやっているだけだったら、開花しなかったと思います。経験の幅を広げることによって、彼の人生はより豊かなものになっているのではないかと思います。
池田 やりがいを感じていると思います。パナソニックから移籍した田城(貴之)も、キューバのナショナルチームの受け入れを任せたら、ビザの申請から合宿先の食事の調整、通訳のアテンドなど、細々としたことをすべて一人でやってくれました。エキジビションマッチを開催して、それをキューバチームの滞在費に当てる仕組みも彼が考えました。これは財産になっていると思います。
横井 それは最後に社長が責任を取る覚悟をもってやっているからできることですよね。
池田 たしかに見守るには覚悟がいります。ナショナルチームの受け入れですからね。失礼があってはいけないけれど、限界まで我慢しました(笑)。ただ、横井さんもおっしゃっていましたが、そういうことを選手時代に経験しておくと、引退後も、それを生かして社会で活躍できる人材になってくれるのではないかと思います。まだまだ隠れた能力を持っている選手がいると思うので、一人ひとりとかかわって各々の持ち味をもっと引き出していきたいと思っています。

「未来のために、9割三振でもくじけずに打席に立ち続けてヒットを狙う」池田社長
横井 ヴォレアスさんの開幕戦は特別なイベントをやるのですか?
池田 ビールにフォーカスしたいと考えています。うちは2017年のV-THEATERから毎回お酒を提供していますが、お客様の中にはとまどう方がまだまだいらっしゃいます。ヨーロッパを視察した時も、お酒とエキサイティングなスポーツをどうやって関連づけようかと考えていました。今リーグでは自然に楽しめる空間を作っていきたいと思っています。
また、僕たちは味方へのヤジがもっと増えてくれることを望んでいます。ミスをしたら「何をやっているんだ!」という、厳しい声が飛び交ってくれたらいいなと思っています。
横井 そういえば、V-THEATERの時も、ものすごくやじっている方がいらっしゃいましたね。
池田 いつも応援してくださっている山頭火(※)の社長です。あの日はビールを8杯くらい飲んでいらっしゃいました。
※山頭火:旭川発祥のラーメン店。直営とフランチャイズで日本国内に16店舗、アメリカをはじめ海外9ヶ国に40店舗を展開している。
横井 試合中もかなり大きな声で選手をヤジっていたというか、あおっていました。そこに愛があるのかまではわかりませんでしたが…。
池田 彼がスポーツ観戦の本来の姿だと思います。スポーツの起源はコロッセオなんです(笑)。ああやって声をかけられると、選手も「命がけ」とまでは言わないまでも「絶対に負けられない」と思うじゃないですか。甲子園球場でも阪神が負けるとメガホンが投げ込まれたりしますよね。あれを意識すると、普段の練習の質も変わってくると思います。
前回のリーグを戦い終えて、うちの選手たちは皆、「ホームゲームはアドレナリンが出る」と言っていました。昨シーズン、途中から合流した佐々木(博秋)は「お客さんがいないところでバレーボールするのは嫌だ」とはっきり言います。ヴォレアスに来た理由も「楽しそうだから」って。彼はシンプルな男で「こんなにたくさんのお客様の前でプレーできるのはうれしい」と張り切っています。
横井 うちの高松(卓矢)も目立ちたい人間で、これからプロ球団として活動していく私たちにとっては貴重な存在です。
池田 そうですね。会場にお客様を呼べる選手は貴重です。彼を見たくて会場に足を運んでくださるうちにバレーボールを好きになったり、球団を好きになったりしてくれるわけですから。それが先ほどお話ししたマーケットバリューなのです。選手に価値があるからお客様が来てくださり、お金が落ちて、バレーボール界が回っていく。そういう仕組みを頭に置いていろいろと工夫させてもらっています。そうしなければバレーボールの価値、市場の拡大、そして強化に繋がらないと思ってます。
横井 V-THEATERではヴォレアスTシャツを購入させていただきました(笑)。
池田 そうでしたね。おかげさまでいろいろなチームの方が買ってくださいます。ありがたいことです。
横井 初日に買って、2日目のトレフェルサとの試合の時に着ていました(笑)。あれがホームゲームに行くという意味だと思います。以前カナダに住んでいた時も、スポーツ観戦をする時は必ずシャツを買いました。多くはその時しか着ないのですが、同じものを着て応援するだけで高揚するじゃないですか。それがホームゲームの楽しみ方だと思います。ヴォレアスさんのTシャツは非常に品質もよかったので、朝のジョギングで着ています。名古屋で宣伝させてもらっています(笑)。
池田 (笑)ありがとうございます。すごく嬉しいです!
横井 会場に行かないと買えないというのもすごいコンセプトですよね。
池田 僕たちはグッズ売りではないですからね。会場に来てもらうという本来の目的を貫いています。もちろん収益も大切ですが、収益ばかりに気を取られると僕たちがこのチームを作った目的と離れて行きます。皆さんが会場に行きたいと思ってくださる、動機となるものを提供していかなければならないので、会場限定で販売させてもらっています。
横井 そこはなかなか真似できないかもしれませんが、VーTHEATERで両チームの選手の代表がスパイクコンテストをやりましたよね。その時ネット際に数人のお客様が立たれていました。自分の頭上からものすごいスパイクがたたき込まれたら、それだけで選手のすごさが伝わりますし、また来たいと思わせることができます。ああいう仕掛けをどんどんしていかなければいけないですよね。ヴォレアスさんがいいお手本になってくださるので、参考にさせていただきながら、少しずつ実現していきます。
池田 ありがとうございます。だだ、そうは言っても僕らもヒット率は1割ぐらいですよ。9割は三振しています(笑)。
横井 そんなことはないでしょう。
池田 実際にそうなんです。ただ、圧倒的に打席には立っています。すべてにおいてチャレンジし、ダメなものはすぐやめるので打率が低いのです。毎日が、計画⇒実行⇒改善の繰り返しなのです。
横井 (笑)いやいや、打席に立つことが重要なのです。うちのチームコンセプトも「Dare to challenge!」。まさに果敢な挑戦をやり続けることを大切にしています。今、協賛をして頂けそうな、地域の企業などを少しずつまわり始めていますが、まだまだ認知されていないというか。「こんなチームがあったんですか」という話になるので、努力が足りていないことを思い知らされているところです。今までやった事がない、来年度、入団する選手の記者会見も初めて開きました。名古屋テレビさんの秋祭りのイベントにも出させていただいて、原口あきまささんとうちの選手がトークショーをやったり、その内容をテレビでも放映していただいたり。ダメだったら変えればいいというスタンスで、いろいろなことにチャレンジしています。
池田 私たちがやってきたことでよければ蓄積がありますのでご提案します。きっといいものができると思います。Vリーグを変えていきましょう。
横井 ありがとうございます。来年の話になりますが、今度は名古屋に来ていただいて、フレンドリーマッチをお願いします。所属する選手みんなに試合に出てもらうためにも、独自開催の試合をもっと増やすべきだと思っています。
池田 そうですね。V.LEAGUEにはベストな状態で戦わなければいけないというルールがありますからね。
横井 試合が少ないとせっかくのタレントも花開かない。お客様も、そういう選手たちのプレーを観る機会があれば楽しみにしてくださると思うのです。伊織くんのご縁もありますし…。その後も定期的に交流戦をやらせていただけたら大変嬉しいです。来年、うちはチーム名も変わりますから、ぜひ実現させてください。
池田 グッズが2重で売れますね。(笑)
横井 (笑)そんなことは頭にありませんが、とにかく今リーグは豊田合成トレフェルサという名前で戦う最後のリーグですし、新生Vリーグのスタートですので、さまざまなことに挑戦しながら頑張ります。
池田 本日はありがとうございました。