パナソニックパンサーズが、創立記念日の5月5日(創立日は3月7日)に黒鷲旗全日本男女選抜大会で優勝し、悲願の3冠(天皇杯・Vリーグ・黒鷲旗)を成し遂げた。翌日には地元の大阪・枚方(ひらかた)市で優勝パレードを行い、多くのファンとともに喜びを分かち合った。
監督就任4年目にして偉業を成し遂げた川村慎二監督に、これまでの道のりや今後について聞いた。

監督に就任してから3年間はホンマに苦しかった
▶創業100周年に3冠達成、おめでとうございます。
ありがとうございます。清水(邦広)のケガはありましたが、そこをみんなで補い合いながら戦ってリーグ優勝できました。そのつながりで、創業100周年という記念すべき年に3冠を達成することができてホッとしています。津賀社長が来られている前で優勝することができたので、パナソニックの中でのバレーボールの地位が確立されたのではないかと思います。
▶社内は盛り上がっているのでしょうね。
V・プレミアリーグで優勝した時に、各事業所の本部長さんが事業所のWEBサイトで「パンサーズが優勝しました」「事業所からはこんな選手が出ています」とPRしてくれるなど、かなり反響がありました。
▶ここまで長い道のりでしたか。
監督になってから毎年負けていたので、ホンマに苦しかったです。前回はいいところでケガ人が出ました。そういうことも踏まえてチーム全体を底上げし、今年こそは、という気持ちで戦ってきたので、目標を達成できてよかったです。

▶監督就任は急でしたよね。
そうなんです。1年目は選手兼監督でした。代わったのは監督と外国人選手だけ。南部正司監督のもとで、一緒にプレーし優勝を成し遂げた選手がたくさんいたので大丈夫だろうという気持ちで見ていたら、ファイナル6で1度も勝てず、6位に終わりました。前年の優勝チームなのに、監督が代わるだけでこんなに変わるんだ、と驚きました。なぜ、勝てへんのかなと思いましたが、やっぱり監督の采配なんですよね。その年の僕は監督じゃなかったです。ベンチからも、前年までアップエリアで見ていたのと同じように試合を見ていました。
▶ファイナルで豊田合成と戦ったのが2年目ですか?
はい。1年目の悔しさを晴らそうと、チームが1つになってファイナルまで勝ち進むことができました。ただ、2年目もメンバーがほとんど変わっていなかったので、どこかに大丈夫だろうという甘い気持ちがあったんでしょうね。優勝は逃してしまいました。次こそは、という気持ちで臨んだ昨シーズン(3年目)はケガ人が出たこともあり、ファイナル3にも進めませんでした。
▶1レグは全勝と好スタートを切っていただけに、悔しかったのでは?
人事はだいたい3年周期じゃないですか。3年目には結果を出さなければいけないのに、この年はVリーグだけでなく、天皇杯や黒鷲旗でもいい成績を残すことができなかったので苦しかったです。何年も優勝から離れると周囲の見方も厳しくなって「いい選手が揃っているのに、なぜ勝てない」と言われます。4年目の今シーズンは優勝するしかなく、スタッフ全員が覚悟をもって臨みました。
▶創立100周年というプレッシャーはありましたか。
それは、さほどなかったですが、僕が勝手に「優勝しなければ、2位も3位も同じ」と自分にプレッシャーをかけていました。自分の考えを選手に伝える時も覚悟をもって話しました。そうしないとブレてしまうからです。チーム強化についてはコーチとやりとりし、最善策を考えながらやってきました。選手自身にも勝ちたいという気持ちがあったので、うまくいったのだと思います。
▶具体的にはどういう準備をして臨んだのですか。
まずはケガをしない体づくりが必要だと思いました。ベースとなる基礎的な体力、技術を身につけさせるために、夏場に時間を割きました。また、固定のメンバーで練習するのではなく、メンバーをごちゃまぜにして、誰が出ても順応できるように準備しました。それでも、Vリーグで清水がケガをした試合と次の試合は、選手の気持ちが癒えていなかったので連敗しました。(それまでの貯金で)ファイナル進出を決めることができ、1週間空いたのは大きかったです。僕たちがファイナル3に行ってたら負けていたかもしれません。

新シーズンを迎え、チャレンジャーとしてVリーグ連覇に挑む
▶この1年で一番伸びた選手は誰でしょう。
若手は全員伸びています。強いていえば関田(誠大)かな。夏場は代表チームに選出されて抜けている選手が多いのですが、昨年は福澤(達哉)、白澤(健児)もかなり頑張り、みんなで目標を達成できました。
▶山内(晶大)選手はいかがでしょう。中心選手に成長したのでは?
そうですね。安定してきました。山内は試合を通じてよくなっていく選手。だから試合に出し続けたほうがいいのかもしれません。白澤から吸収できるものもたくさんあると思います。まだまだ伸びしろがあると思うので楽しみです。
▶クビアク(・ミハウ)選手がチームにもたらした効果を教えてください。
リーダーシップがある選手ですし、あの身長であれだけうまいプレーをするので、日本のサイドプレーヤーのほとんどが見習わなければいけない選手だと思います。これはいろいろなメディアに言っていることですが、これから2m級の選手が出て来ることはめったにないと思います。でも、190cmそこそこの選手は出てくると思います。そういう選手たちに、上を目指して努力してほしいんですよね。そのくらいの身長があれば、高校、大学では工夫をしなくてもアタックを決められると思います。それで満足するのではなく、海外には2m10〜20cmの選手がたくさんいるので、そういうところを見据えながら技術を磨いてほしいと思います。技術は積み上げていくしかないので、うちのチームでもクビアクのフォームを見てマネをするよう、常に言っています。
また、彼は自分の体にいいと思うことにはどん欲で、シーズン中は1滴もお酒を飲みません。試合に向けての準備やシーズン中の食事の取り方などもしっかり勉強し、実践しているので、選手は影響を受けています。今の選手たちはクビアクという手本が身近にいることもあって、こちらから言わなくても、かなりいろいろと考えて行動しています。

▶パナソニックは選手層が厚く、試合に出るにはチーム内の競争に勝たなければいけません。そういうことも影響しているのでしょうか。
その辺りの感じ方は選手一人ひとり違うと思います。パナソニックというブランドを背負っているので、(言わなくても努力をするであろうと信頼し)選手たちに細かいことまで強制はしていませんが、「人と同じことをやっていても勝てないのであれば、違うことをやらなければいけない」ということは伝えています。また、代表に選ばれて夏場にチームを離れる選手には、帰ってきたら、人一倍頑張るくらいの気構えがなければといけないと思っています。どのような理由であれ、抜ければチームに迷惑がかかるので、それを理解できる選手であってほしいし、パナソニックでも、代表選手にふさわしいプレーをしてほしいと思っています。
▶次の目標はVリーグ連覇、2年連続3冠ということになると思いますが、実現するために何が必要だと思いますか。
リーグ連覇はものすごく難しいです。この十数年間、どのチームもできていないことがそれを物語っています。僕らもチャンピオンはもう終わりです。シーズンが変わったので、もう1回チャレンジャーとしていろいろなことに挑戦しないと、さらなる高みは生まれないと思っています。僕たちがVリーグで優勝し、社長賞をいただいた時に、津賀社長が何回も「チャレンジャー」という言葉を使われていて、僕らに大切な言葉であると感じたので、なにか新しいことに取り組んでいきたいと思っています。例えば、Vリーグの決勝では清水のポジションに久原(翼)が入って頑張りましたが、選手の特性により、いわゆるオポジットではなく、昔のライトのような働きをしてもいいですし、ミドルがサーブを打った後、パイプに入ってもおもしろいと思います。昨年と同じでは対策を取られてしまうので、いろいろなことにチャレンジしていきたいです。
▶黒鷲旗では大竹(壱青)選手が活躍しました。
まだまだ荒削りですが、パワーはすごいですね。黒鷲旗で優勝できたのは、壱青にとってすごくプラスになったのではないかと思います。
▶これからどのように育てようと思っていますか。
オポジットが1つの軸になりますが、小学校からバレーをやっているので、器用さが必要とされるプレーもできると思います。その1つとして、レセプションをやらせてみようかなと思っています。
▶アウトサイドも視野に入れているということでしょうか。
いわゆるオポジットではなくて、昔のライトのような動きができれば、攻撃の幅が広がるのではないかと思います。
▶パスのできるセッター対角ということですか。
そうですね。まだまだ体力が足りていないので、これからバレーをするための体改革をしていけば、もっといい選手になると思います。壱青が入ったことにより、そのポジションでもいい競争が生まれて、おもしろくなりそうだなと感じています。
