中央大学主将 柳田貴洋
中央大学は、今春、柳田貴洋(当時3年/現4年)と都築仁(当時1年/現2年)をイタリアのプロチームに1ヶ月間、バレー留学させた。柳田は2月6日からセリエA2のトスカーナで、都築は2月22日からセリエBのラメーツィアで練習に参加。チームに戻ってきたばかりの柳田貴洋に、イタリアでの生活や主将としての抱負を聞いた。

イタリアでは完全アウエーな状況で悪戦苦闘
▶海外には以前から興味をもっていたのですか。
柳田 はい。行ってみたいなと思っていました。その時のために、大学3年生になってから週1回、英会話の勉強をしていたので、バレーボールでイタリア行きのお話をいただいた時はとても嬉しかったです。
▶英会話は大学で?
柳田 外部のスクールです。大学1年の時から英会話を勉強したいという気持ちはあったのですが、1、2年は授業がたくさんあるし、親からの仕送りで生活しているので時間もお金も余裕がなかったんですよね。3年になれば時間に余裕ができるので、そこを目標にお金を貯めて入会しました。
▶しっかりしていますね。
柳田 とはいえ月謝の負担が大きく、学生が払い続けるのは大変なので、通ったのは3、4ヶ月でしたけどね。
▶大学1年生というと、お兄さん(柳田将洋/ドイツ・ブンデスリーガ バレーボール・バイソンズ・ビュール)が海外に行く前から興味を持っていたということですか。
柳田 そうですね。そもそものきっかけは、大学1年生の時にバレーボールの国際試合(アメリカ対アルゼンチン)を観戦した時です。コートサイドに座っていたのですが、ベンチで選手たちが英語でしゃべっているのを聞いて、話の内容がわかったらおもしろいだろうなと思いました。それから意識して英語を勉強し、海外に出て英語でコミュニケーションをとってみたいという気持ちが芽生えてきたという感じです。
ただ、学生の間に行けるとは思っていなかったですし、ましてやバレーボールで行けるとはまったく思っていませんでした。そういうことができるのは、石川先輩(祐希/イタリア・セリエAタイワン・エクセレンス・ラティーナ)のような限られた人だけだと思っていたので、自分は社会人になってから行くつもりでした。
▶イタリアではどんな経験をしましたか。
柳田 想像以上にイタリア人が英語をしゃべれなかったんですよ。英語を話せるのは監督と選手2人くらい。練習中はすべてイタリア語なのでコミュニケーションがとれず、最初は孤立してました。
つらくてマサ(兄)に連絡したら「最初は俺もそうだったよ。慣れてからは楽しいよ」と言われました。自分でどうにかするしかないんだなと思って試行錯誤するうちに会話が増えて、2週目から楽しくなりました。最終的には練習でもコミュニケーションをとれるようになりましたし、一緒にごはんを食べに行くこともできるようになったのでよかったです。
▶どのようにしてその壁を乗り越えたのですか。
柳田 向こうはプロ、こちらは練習生。向こうは生活がかかっているので、ベテラン選手は相手にしてくれないんですよね。こちらを気にかける理由がないというのは理解していたので、年齢が近い若い選手に話しかけることから始めました。「レストランに行くの?」「一緒に行っていい?」とか。休みの日に「一緒にごはん行こう」とか。勇気をもって話しかけると次第に会話が増えて、向こうからも誘ってくれるようになりました。若い選手とコミュニケーションがとれるようになると、年齢が上の人たちにつないでくれて。レストランに連れて行ってもらえたので、そこまで関係を築けたことは自信になりました。
▶コミュニケーションはイタリア語で?
柳田 いや、英語です。お互いにカタコトの英語で会話しました。コミュニケーションをとるには正しくしゃべることよりも、気持ちが伝わるように頑張ることが大切なんですよね。こちらの気持ちが伝われば相手も理解しようとしてくれるので、その関係を作ることが大事だと感じました。
▶その体験は社会に出てからも役立ちそうですね。
柳田 これまで、バレーボール選手として周りに相手にされないという経験をしたことがありませんでした。高校にしても大学にしてもだいたいが知っている人だったし、自分のこともだいたいが知ってくれているという環境だったので衝撃でした(笑)。今回はこっちも知らなければ向こうも知らない。ましてや(自分は)いなくてもいい人なので、最初は本当につらかったです。自分の力で来ているならそこで折れてしまってもいいのですが、多くの人の支えがあってここに来られたので、このまま帰るのは申し訳ないですよね。送り出してくれた人への思いが状況を改善しようという意思や行動につながりました。
▶イタリアから帰って来て、コート上での表現が変わったと聞きましたが…。
柳田 向こうの人は喜びや怒りを素直にそのまま表現するので、多少影響を受けている部分はあります。怒りは試合中ではなく練習中に出すのですが、それをきっかけに話し合ったり、確認し合ったりして調整していくのはいいことだと思ったので、帰ってきてすぐに「そういうところをちゃんとやっていこう」と同期のメンバーに話しました。自分のオーバーアクションはいいか悪いかわからないですけど、出ちゃってるかもしれませんね(笑)。
▶いいんじゃないですか。今まではどちらかというとクールでしたけど、熱い柳田選手も見てみたいです。
柳田 今までは出せなかったというか。出す余裕がなかったというか。あえてそうしていたのではなくて、楽しむ余裕がなかったのかもしれません。向こうの人たちは勝負に対して真剣に向き合いながらも、素直にバレーボールを楽しんでいました。いいバランスでやっていたので、そういうところも見習いたいと思いました。コートでは表情を見合っているので、素直に表現したほうがプラスに働くのかなと思います。
▶バレーボールの楽しさも改めて気づかされた?
柳田 そうですね。気づいたらバレーボールをやっていて、小さい頃は楽しかったけど、段々怒られることが多くなって。中学、高校と上をめざしてやっていくうちにいつの間にか楽しむということを忘れていたような気がします。大学では自主性をもって活動していますが、時々気持ちが乗らない自分に気づくことがありました。向こうの人たちは枠にとらわれずにやっている。厳しい練習の中でも楽しんでいる。それを肌で感じたので、そういう自分でありたいし、大学でそういう雰囲気を作ることができたら強くなるのではないかと思っています。
▶キャプテンになったタイミングで、そういう経験ができたのはよかったですね。
柳田 向こうはシーズン中で、ボロボロに負けた翌日は2時間くらいミーティングをするんです。みんながみんな遠慮なく意見を言い合って、まるでけんかをしているようでした。けんかができるというのも大事なことで、中大にも学年に関係なく意見を言える雰囲気はありますが、チームの状態が悪い時ほど意見を出し合い改善できるチームづくりをしていきたいと思いました。

家庭で身につけた“周囲を見て柔軟に行動する力”が持ち味
▶柳田選手はいろいろなポジションを経験していますが、今の自分に役立っていますか。
柳田 それは間違いないですね。リベロにとってトスを上げる力は必須ですし、長い間、アタッカーだったので、レシーブをする時に相手アタッカーがどう打つかという予測もできます。そういうプレー面でのメリットだけでなく、今の自分があるのは自分を取り巻く環境や人の意見を受け入れてきたからなので、そうしてきてよかったなと思います。
▶葛藤もあったでしょう。
柳田 アタッカーからセッターに転向した時は、チームにセッターがいなかったので仕方なく自分でやることにしたのですが、セッターをやったことで中大バレー部に入ることができました。リベロになったきっかけは、(松永)理生さん(中央大バレー部アドバイザー)から「セッターよりもリベロのほうが将来に向けての可能性が広がる」と言われたからです。葛藤がなかったわけではありませんが、理生さんが指導者の目で見てそう言ってくれたのだから素直に受け入れて頑張ってみようと思いました。今、試合に出ることができているので、その選択は間違っていなかったと思います。ヒカリ(土岐太陽/2年)は高校三冠を成し遂げたチームのリベロだけあってうまいし、学ぶところが多い選手ですが、今年はキャプテンなので、自分がしっかり試合に出てチームを支えなければいけないと思っています。
▶お話を聞いていると、自分の考えを言葉にすることが上手ですよね。壁にぶつかりながらも自分をうまくコントロールして人生を築いているところも将洋選手と重なるのですが、それは柳田家の教えですか。
柳田 兄は「おしゃべり」と言われることが多いですが、僕はしゃべらなかったんです。変わったのは大学に入ってからです。チームの方針でコートでは後輩も先輩に意見しなければならないので、みんながやっている中で自分も考えを言えるようになりました。柔軟性に関してはどうでしょう。僕は二男ということもあって、小さい頃から親と兄の様子を伺いながらどちらの機嫌もとってきたので(笑)。察しをつけて行動する力はあるほうだと思います。
▶周りがよく見えていると感じましたが、それは家庭の中で身についたものなのですね。
柳田 それは間違いなくそうですね。
▶進路については考えていますか。
柳田 僕もマサと同じように、大学に入学する時はその先でもバレーをやるかどうかは考えていませんでした。でもマサは今、ドイツでバレーをやっています。「何があるかわからないね」みたいな話をしましたが、僕も可能であれば続けたいと思っています。Vリーグが目標です。
▶リベロだったら海外という選択もあるのでは?
柳田 いやいや、向こうのリベロもうまかったですよ。2部リーグなのでアタッカーにはプレーが粗い人もいましたが、リベロは2人ともうまくてレベルの高さを感じました。
▶リベロで海外に行けたら、「あの時、リベロを選択してよかった」と思えるのでは?
柳田 その気持ちは味わってみたいですけどね。
▶チームはどんな感じですか。
柳田 練習ゲームでは手応えを感じています。ただ、今年は大黒柱といえる選手がいません。ワタル(谷口渉/4年)が頑張ってくれていますけど、大きくて、いざとなったら預けられる選手がいないので、チーム力で切り抜けるしかないと思っています。そのチーム力は普段の練習から生まれるものだと思うので、チームの状況を見極めながら、4年生が責任をもって引っ張っていかなければいけないと思っています。
▶都築選手がどう成長しているか、楽しみですね。※取材時は帰国前
柳田 それは期待したいです。攻撃力はあるので、高さのあるブロックに対して、どう工夫して打つか。そういう技術をイタリアで学んできてくれたらチームとしてもありがたいです。
▶石川選手、大竹選手(壱青/パナソニック)、武智選手(洸史/JT)らが抜けて、どんなチームで戦いを挑むのか。そこが今リーグの見どころの1つのになると思うので、期待しています。
柳田 強いチームでプレーしたいと思って入った中大ですが、そのチームのキャプテンを任されて、正直プレッシャーはあります。それに負けないように頑張っていかなければいけないと思っています。昨年までとはガラッとチームが変わるので、今までの中大のイメージにすがらず、地味なプレーを丁寧に積み上げて、一から這い上がるつもりで頑張ります。
(取材・構成/金子裕美)
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